1964年12月31日、ゴッドフレー・マムフォードは70回目の誕生日を迎えたにあたって、彼の遺産受取人に対して重要な発表を行った。ゴッドフレーの財産管理を行っていたトルースロー・アジソン・ジュニアが、500万ドルにも及ぶはずの財産を横領していたため、ほぼ破産状態に陥った、というのだ。しかし、さらに彼は、自分が極めて貴重な“天皇の首飾り”と呼ばれるペンダントを書斎の隠し金庫に収めていたことを示し、時価100万ドル相当のこの物品だけが、彼に残された資産だと告げた。
その4日後、ゴッドフレーは脳血栓で倒れてしまう。そして麻痺のため、話すことができなくなってしまった。医師のコンクリン・ファーナムは、ゴッドフレーの治療のために入院が必要だと言うが、あいにくベッドの空きが一つもなかったため、後妻のマーガレット・キャズウェルが看護を行うことを申し出た。マーガレットの献身的な看護により、ゴッドフレーは快方に向かっていた。だが、何者かがゴッドフレーを刺殺したのだ!
ふと思い立ってライツヴィルを訪れてたエラリイは、ニュービィ署長の嫌味を聞かされつつも、ゴッドフレー殺人事件の捜査に協力することになってしまった。ゴッドフレーの殺害現場を調べていたエラリイは、ゴッドフレーの麻痺が大分回復していたことを確かめた。その結果、ナイトテーブルの上に置かれていたメモ帳に書かれていた文字「MUM」が、彼によるダイイングメッセージであると指摘したのだ。また、ゴッドフレーが隠し金庫を開けるための文字組み合わせを書き残さずに殺されてしまったため、捜査陣はゴッドフレー殺害犯を探すのに併せて、金庫の中身を確かめる作業も行わなければならなくなった。エラリイがゴッドフレーの残した「MUM」という単語をヒントに、金庫を開けることには成功した。またしても、だが、金庫の中に“天皇の首飾り”は収められていなかったのだ!
ゴッドフレー殺害犯は、ゴッドフレーを脅して金庫の中身を奪った後、彼を殺したのだろうか? それとも、ゴッドフレー殺害犯と首飾り窃盗犯は別人なのだろうか? そして、エラリイの推理は、いつもの切れ味を発揮して犯人を指摘することに成功するのだろうか!?
本短編集最初の作品は、2種類の意味?を有するダイイングメッセージもの。単なるダイイングメッセージものと異なるのは、ダイイングメッセージの内容が難しいというのではなく、その言葉があまりにも多くの人に当てはまる内容であるため、犯人の特定が難しいということであった。
中編としてはよくまとまっていると思うが、登場人物が“MUM”という言葉に二重の因縁があること、が徹底していない点が作品の完成度を下げている。また、金庫から首飾りが消えた謎とゴッドフレー殺害の謎が関連していなかったというのは、いったい何のために金庫の謎話を行ったのか、その意図が不明としか言い様がない。現実でもそういうものじゃん、と言われれば、それは確かにそうなのだが。
さらに言えば、エラリイの推理の切れ味もよくなかったりする。犯人当てについては、エラリイならではの注意力が活かされているので良いのだが、そこに至るまでの過程が散漫としている。前述のように、“MUM”に関する二重の意味付けがストーリー中に効果を現していないので、エラリイの犯人当て作業がなんの意味もない行為になってしまっている。余計なロマンス描写を入れる暇があるのなら、エラリイの推理描写の充実を望みたい作品である。
ライツヴィルでは彼が大成功すると、必ずいやなあと味が残るからだった(P.34)
かなり経験をつんだ考え抜く力が要るものだ(P.54)
4月22日金曜日8時40分第109号室にて、犯罪がいかにペイしないか、という講義を行うようミス・カーペンターに依頼されたエラリイは、時間に間に合うよう人目もかまわずに駆け出した。
この2カ月というもの、ヘンリー・ハドソン校付近の商店は、そこの学生に荒らされ続けていたため、学校に対する苦情が相次いでいたのだ。ミス・カーペンター自身もまた、彼女の学生であるハワード・ラフォー、デイビッド・ストレーカー、そしてジョーイ・ビュエルがパン屋のショーウィンドウから出てきたのを目撃していた。だが、彼らを警察に引き渡せば全てが解決するわけではない、とミス・カーペンターは考えた。犯罪が引き合わないことを、西87丁目の英雄であるエラリイ自らに語ってもらうことで、ミス・カーペンターは彼らを更正させようとしたのだ。
7分遅れで教室に駆け込んだエラリイは、しかし重要な局面に直面させられたことに即座に気がついた。ミス・マクダウトの結婚祝い金として、ミス・カーペンターが集金した7ドルが盗まれた、というのだ。講義は中止、エラリイは犯罪捜査の実施教育を行うことになってしまう。しかも、9時35分までに犯人を捜し出し、盗まれたお金を見つけなければ、エラリイの面子は丸つぶれ、犯罪がペイするものであることを証明してしまう。エラリイは必死に盗まれた金を探すのだが……!?
軽い作品だが、クイーンの作品ならではのツイストが効いた展開がなかなか読ませる。特に、時間に追われながらも、残された物証から推理を行うエラリイの描写がスリリングでよい。なにしろ、今回の事件は条件が厳しいことから、エラリイが対処した数多くの事件の中でも、かなりの難事件の一つであろうから。
ゆっくり考えろ。一分間には秒はうんとたくさんあるのだ(P.102)
われわれはだれでも、自分が強いつもりでいるが、そのうちに必ずもっと強いものにぶつかるんだぜ(中略)われわれは、自分がだれよりも抜け目なくやったつもりでいるが、すぐにだれかが出て来て、われわれを出し抜くものだ。われわれは十二遍も危ないところを逃れることができても、十三遍目には、きっととっちめられるんだ。**(筆者註:犯人名のため伏せ字)、勝ち抜くことはできないものだぞ(P.105)『十日間の不思議』で、エラリイが実感したことであろう
劇的に恋愛に不運な女優モデスタ・ライアンに、しかし突然転機が訪れた。彼女に結婚を求めた男が、同時に三人も現れたのだ。舞台俳優ジョック・シャンヴィル、ボクサーのキッド・キャット、財産家のリチャード・ヴァン・オールド二世は、三人それぞれが異なった魅力を有しており、モデスタがこの中から誰を選ぶのかが、ここ最近のブロードウェイにおける一番の話題だった。
ある雨の夜、結婚相手に関する相談にのって欲しい、という電話をモデスタから受けたエラリイは、急いで彼女の住むマンションへ向かった。しかし、駐車場所がなかったため、10分あまりも時間を無駄にしてしまったエラリイが、モデスタのアパートで見たのは、胸を撃たれて瀕死の彼女の姿だった。
結婚を断られた男がモデスタを撃ったに違いない、とクイーン警視は推測するものの、いったい誰がモデスタの結婚相手となり、誰が断られたのか、それを知っているのは治療を受けているモデスタしか知らないことだったため、捜査は難航するかに思われた。だが、エラリイは、この駐車難を利用して犯人を見つけることができるというのだが……?
それほど難しい問題ではない……というか、犯人逮捕について駐車難の問題はそれほど意味がなかったりする。エラリイの目撃情報を丹念に追求していけば、通常の手法でも逮捕できた犯人であろう。
強盗の手引きラスティ・ジョンソンを捜索していたクイーン警視たちが彼の部屋で発見したのは、チャーリー・ブロックという名の詐欺師の射殺死体と、拳銃を手にしていたジューン・グレアムという女性だった。ブロックは家主のフィンガーから5室部屋を借りていたのだが、そのうち3室を家主に無断で、子持ちの未亡人ミセス・ウォジェスカ、除隊した元GIのハンク&ジューン・グレアム夫妻、そして、強盗フランク・ポンポの手引きを行っていたラスティ・ジョンソンに又貸ししていたのだ。
家主フィンガーがブロックの儲けを掠めようとしたため、ブロックは又貸しした相手に対する家賃取り立てを行うことにしたのだが、その途中グレアムが住宅購入のため溜め込んでいた3000ドルが盗まれたことを騒ぎ立て始めた。ラスティがそれを盗んだことを突き止めると、ブロックはそれを山分けにしようと持ちかけた。その翌日、クイーン警視たちがラスティの部屋でブロックの死体を発見したのだった。
果たして、ジューンがブロックを殺害したのだろうか? エラリイは盗まれ3000ドルを調べたことによって、犯人を発見した!
時系列で物語が進むのではない、作品構成にちょっとひねりがある作品。推理そのものはひねりはなく、盗まれたお金と犯人が直接的に結びつくとは言い難い部分もあるような気がする。
難病の娘ジョーディのため、家計のやりくりに悩んでいたヘンリー・ウィッターは、新たな悩みごとに見舞われることになった。ジョーディの2回目の手術の際に、彼は高利貸タリイから金を借りたのだが、急に利息のみならず元金をも返せと言われたのだ。だが、タリイは何者かに殺されてしまい、その殺害犯としてヘンリーがクイーン警視に捕まってしまった。ヘンリーは、その苦境を訴えても聞き入れて貰えなかったため、タリイを殴り倒してしまったことが、心証を悪くしてしまったのだ。
だが、エラリイは、証拠がタリイのオフィスに残っていないことから、ヘンリーが犯人でないことを確信した。いったい、エラリイは、何がないことから、犯人を指摘することができたのだろうか!?
推理そのものよりも、物語の背景、ディテールが凝っている作品。難病の娘を抱えているヘンリーだけでなく、他の登場人物もまたいろいろな事情があってお金を借りていることにも、少ないながらきちんと筆が及んでいるところが、巧者クイーンならではと言えよう。また、事件の解決が、直接的な解決にはならないものの、ウィッター家に希望を感じさせるという展開が読む者の心を打つ。
だからと言って、推理がおざなりになっているわけではない。きちんとした手がかりが示されており、それに基づいてエラリイが推理を行うという展開は守られている。地口ネタも嫌いではないが、やはりこういう推理がきちんと提示されるという作品の方がやはり面白い。
新婦シェリーは新郎のジミー・ブラウンが自分を放ってどこかへ行ってしまったため、エラリイの元へ相談に現れた。彼女の夫が1万ドル紙幣を2枚隠し持っていたのを見つけたシェリーは、自分の夫の正体を知らなかったことに気づいたのだ。
エラリイの聞き込みで、ジミー・ブラウンは名うての賭博師であり、今現在ビッグTと呼ばれる大賭博師と勝負を繰り広げていることがわかった。2万ドルはジミーがいざというときに備えていたものであることがわかったシェリーは、別の隠し場所にしまっておいたその金をジミーに持参しようとしたが、事故に巻き込まれて大ケガを負ってしまう。
彼女が金の隠し場所として示した言葉は「In a Book」であった。しかし、ジミーとシェリーの新居に本は一冊も置いてないのだ。ビッグTの付け馬クッキー・ナポリが冷笑する中、エラリイが見つけ出した金の隠し場所とは、どこだったのか?
ちょっと謎な作品。いったい、ここに金が隠されていることを窃盗者がなぜ知ることができたのか、フランシス・M・ネヴィンスJr.ならずとも不思議に思うところである。
エラリイは、クイーン警視の旧知の仲であるテレンス・ファインバーグ警視とピート・サントリア警視に協力して、フランスから麻薬を密輸している麻薬密輸団の摘発に協力することになった。この麻薬密輸団は、ワシントンにある国会図書館を麻薬取引の情報交換に使っているというのだ。その情報交換には本が使用されており、本の表題などが仲介人を示しているらしい。
調査のため国会図書館に向かったエラリイは、密輸団の一員である司書が連絡人に持ってくる本のタイトルを盗み見た。その本は3冊、『シェイクスピア全集』、バーナード・ショーの『人と超人』、U・S・グラントの『回想録』だった。連絡人は、これで仲介人が誰だかわかったらしい。そして、エラリイも仲介人を突き止めることに成功した。いったい、この本が示す麻薬取引の仲介人は、誰だというのだろうか?
クイーン好みの、いかにもクイズ向きな作品。本題の謎もツイストが効いているが、その前にエラリイが解き明かすことに成功した本の謎も合わせて、ちょっとしたショートショートとして気軽に読むには適しているだろう。
エラリイは、かつて共同して仕事を行った秘密諜報員ストークに連れられて、“M・メリレス・マンク”タバコ店へ向かった。そこで殺されていた男は、実はマンクではなく、ストークの同僚であるハートマンであった。マンクタバコ店は、外国のスパイが情報交換を行う場所であったため、マンクに生き写しのハートマンがマンクの替え玉として、スパイを突き止めようとしていたのだ。それには成功したのだが、ハートマンは殺されてしまったのだった。
しかし、ハートマンは、瀕死の状態でありながら、タバコの缶「MIX C」を抱えることにより、スパイの正体を知らせようとしていた。その謎を解くため、エラリイがストークに連れてこられたのだった。エラリイは、果たしてこの謎を解くことができたのか!?
上に同じ(手抜き(^^;)。
あと、エラリイが国防上の仕事に関与したことがある、ということが明かされる。これは、やはり政治上の問題がクイーンの作品に微妙な影を落としてきていることを示しているのであろう。『クイーンのフルハウス』所収の『Eの殺人』も国防上の問題が絡んだ話であるし。
認可局長官の汚職事件の重要な証人、アンジェラ・ロートンは二人組の男にさらわれてしまう。脅迫を受けたために証言を行うことを翻してしまう。アンジェラは、犯人を捕まえることができれば証言を行うというのだが、その手がかりは、車で運ばれていた時間と、“EAT”という看板を眼にしたことだけだった。
エラリイは、それだけの手がかりから、アンジェラが捕まえられていた場所を突き止めることに成功するのだろうか?
謎的には大したものではない作品。しかし、アクション映画の女主人公にあこがれたアンジェラが、まさしく女主人公として活躍しているのがなかなか面白かったりする。
クイーン家行きつけの薬局店店主ヘンリー・ブルーバックは、義理の息子、娘について悩んでいた。双生児の一人アリスは、質の悪い男に引っかかりそうであり、双子の片割れアルバートは競馬の賭け屋に多額の借金を抱えていた。そして、もう一人の義理の息子アルビンは、妻グロリアに尻を叩かれ、中古車販売の特約契約を結ぶため、1万5000ドルもの金を必要としていたのだ。
思い悩んだヘンリーは、クイーン警視とエラリイの元へ相談に来た。亡妻の資産を子供たちが狙っており、しかもここ数日の間に毒薬が盗まれたことを、彼が知ったためだった。そして、クイーン家の居間で薬を飲んだヘンリーは、クイーン警視とエラリイの前で死んでしまったのだ!
だが、ヘンリーが死んだその直後に、ヘンリーを殺した犯人がわかったと告げた。いったい、誰がヘンリーを殺したのか、そして、エラリイはなぜそれがわかったのか!?
短編ながら、クイーンらしさのある作品。エラリイの観察力が犯人を見つけることに役立ったという展開は、短編では珍しいような気もする。
また、短編であることからか、かなり実験的な構成がされている。事件が最後の最後まで起きないことや、事件が起こりそうな前振りをていねいに行うという展開は、後期の佳作『緋文字』に先行していたりする。
娘のモリーと外科医コンクリン・ファーナムとの結婚式を前に、マッケンジー夫妻は頭を悩ませなければならないことがいくつかあった。料理の差配や招待客への手配りもさることながら、コンクリンがこれまでつきあってきた女性、サンドラ・バーネットやフロー・ペティグルーの問題を解決する必要があり、またイギリスから来た陰気な従妹ジェニファー・レノルズの処遇をも解決しなければならなかった。前者については、モリーに対して過去はなかったものとするよう言い聞かせることでなんとか解決した。後者の解決については、マッケンジー夫人がニューヨークからエラリイを結婚式に招待することにした。
不幸な境遇に育ったジェニファーの相手をしつつ、エラリイはこの結婚式が波乱に満ちた展開になりそうな予感をひしひしと抱いた。サンドラやフローもコンクリンとの仲を決して諦めたわけではなく、しかもヒステリーを起こして倒れたモリーもまた、実はなにかを隠しているらしい。しかも、モリーが飲んだミルクには、最初に入れた以上に睡眠薬が含まれていたため、モリーは昏倒してしまう。そして、エラリイは彼女に送られていた脅迫状を見つけ出した!
いったい、誰がモリーを殺そうとしたのだろうか? エラリイは、もう一通の脅迫状を見つけ出すことによって、犯人を見つけ出したのだが……?
なんというか、○○な人が出てくると、その人が犯人であるというケースが短編では多い。これは、語られている言葉や語彙の使い方の違いから来るのであろうが、日本人にはわかりにくい部分である。そういう意味では、本作の推理は独創的というわけでもなければ、面白いというわけでもない。
また、クイーンの作品においても、当たり前のことではあるが、その当時の風俗や流行、世相を反映していることが興味深い。このような形でなければ、犯人を設定できなかったという苦衷もあるのかもしれないが。
花婿に代わって花嫁を救うのが、ぼくの得意中の得意だ(P.236)
執事を題材にして新作をものにしようとしていたエラリイだが、執事を取材することができなかったため、執筆を諦めかけてしまう。しかし、エディ・バローズという美女の来訪でそれが解決するかもしれなかった。
エディは自分の祖父が加入している「執事クラブ」のことで、エラリイに相談しにきたのだった。現在の執事クラブは会員が2名、すでに執事業を引退したウィリアム・ジャーヴィスとピーター・バロウズだけであり、しかも最後に生き残った方が執事クラブ全ての財産を受け取ることになっているのだ。この二人は疑心暗鬼に陥って、互いに相手が自分を殺そうとしていると思い込んでしまっているのだ。
エラリイは、クイーン警視の権威でこの争いを止めるため、執事クラブに赴くのだが、この二人は既に亡くなっていたのだ。いったい、どちらが後に死んだのか、エラリイは突き止めることができるのだろうか?
また出たか、トンチ氏式年金という作品(^^;)。
もっとも、今回の作品はそれほど殺伐としたものではなく、どちらが後に死んだのかという判定を行うだけなので、穏当でもあるし、目新しい部分もある。
でも、またトンチ氏式年金か、というツッコミはありだよなぁ(^^;)。
あきれたもんだ。執事というのは、この世の中でもっとも控え目なおとなしい連中ばかりだと思っていたがな(P.242〜243)と語る。
彼らはみんな、生まれつきの賭博師ばかりですわ(P.293)と語るのだった。
エラリイは、クイーン警視から、信じられないほど上流階級に属する人々によって構成される犯罪組織のことを聞かされた。クイーン警視は、この犯罪組織を摘発するため、ミセス・プリンスという女性をエラリイに紹介した。ミセス・プリンスの夫ジョンは、この犯罪組織のため極秘の仕事を取り扱った挙げ句に、横領罪で逮捕され、シンシン刑務所に拘留されているのだが、近日中に保釈されるのだ、という。
組織のため黙秘を続けてきたジョン・プリンスだったが保釈当日、何者かの手によって暗殺されてしまう。虫の息で、プリンスは犯罪組織を構成する4人の幹部の暗号としてボストン、ヒューストン、フィラデルフィア、バークレーの4都市の名を上げた。これは何を意味するのだろうか? そして、犯罪組織のボスは誰なのだろうか?
クイーン好みの一つ、語呂合わせネタ。これ以上語るとネタばらしになりそうなので沈黙することにする(^^;)。
現代の社会の代弁者(P.251)
ある日、エラリイに送られてきた手紙は、パズル・クラブへの入会テストにエラリイを招待する、というものだった。エラリイは喜び勇んで、パズル・クラブの集会へ赴いた。パズル・クラブは今の社会で最高の地位にある人たちで構成されており、その例会ではパズルに関すること以外何事も話し合ってはいけないという、まさにパズルの愛好家だけで構成された団体なのだ。
そして、今回行われたエラリイの入会テストとは、次のようなものだった。
細密画が趣味のナチのスパイ、タールトンという男は、連合軍大反攻作戦の詳細を記した情報をどこに持っていたか?
『パズル・クラブ』では、犯罪とはかかわりない、エラリイの軽い推理が楽しめる作品2編が続く。第一編は、エラリイがパズル・クラブに入会するために知恵を絞る話である。
推理そのものはそれほど難しくはない。このネタならどこに書類を持っていてもよかったのではないか?という気もするが、あえて隠した場所をそこにすることで、パズルを解くには注意を欠いてはいけないよ、ということを示したかったのだろう。
誰に? もちろん、クイーンの作品を読む読者に。なにしろクイーンの作品では、手がかりが配置されていることそのものが、犯人を指摘するための材料になっていることすらあるのだから。
パズル・クラブでは、エラリイに続く新会員として、なんと現職の大統領を招待することに決定した。大統領はこの手のミステリの愛好家でもあり、また、サイアーズとも旧知の仲であったため、招待を快諾した。
ところが、政治上の問題で、大統領はパズル・クラブの例会に出席できなくなってしまった。そこで、エラリイが今回の例会のためにパズルを出題することになった。そして、エラリイは、次のようなパズルを出題した。
女優バレッタ・バン・ビューレンは、ジョン・スラッシュボトム・テイラー三世、A・パーマー・ハリソン、レナード・プライス、ビフ・ウィルソンという四人の男から求婚されたが、断った。そのため、この中の男一人が彼女に対して脅迫状を出し、挙げ句に彼女を殺してしまった。死ぬ前に、バレッタは、彼女との共通点がない男が脅迫状を送ってきた、とエラリイに語ったのだが、その男はいったい誰か?
そんなに難しい問題ではないが、アメリカの歴史に詳しくないと解けない問題ではある。
ニューヨーク州の片田舎ユーレーリアに居を構えていた没落富豪ディキャンポは、生活苦から秘蔵の逸品ポーとリンカーンの署名が入った書籍を、ポー・コレクターのタングストンと、リンカーン・コレクターのハービッシャーを相手に競売することにした。だが、タングストンとハービッシャーは談合の上で、互いに65000ドル以上はびた一文払わない代わりに、その本をどちらに渡すかをディキャンポに決めさせることにした。そこで、ディキャンポはリンカーンが提示した謎を解き明かした方に署名を渡すことに決めて、その謎に従って本を隠したのだった。
旅行から帰ってきたエラリイは、帰宅早々ビアンカ・ディキャンポという女性から助力を求める電話を受けた。父のディキャンポが謎を隠したまま急死してしまったため、ポーとリンカーンの署名の入った本の在処がわからなくなったというのだ。リンカーンは、ポーの『隠された手紙』を読んで感銘を受け、自分でもそのような謎を一つ考えついたというのだ。それは“隠し場所は30dの中”というものだった。
30dとはいったいどういう意味なのか? エラリイはリンカーンの示した謎を解き明かし、本を見つけることができるのだろうか? エラリイ対リンカーンの知恵の戦いは、どちらに軍配が上がるのか?
クイーン好みの(以下略)。ただし、クイーンらしいどんでん返しが用意してあるので、読む者を飽きさせない工夫はあるのがグッド。
しかし、このディキャンポという人、こんなだから没落したんだろうなというか、『開運!なんでも鑑定団』に出て来てウケを取って去っていく人だったのだなというか、そんな感じの人(^^;)。
彼こそアメリカ人の夢のもっとも崇高な投影像として神聖視(P.283)しているらしい