西５０番通で下宿業を営んでいるミセル・アルフレードは、貧乏だったが、娘のルシアがオペラ歌手になることを楽しみに生きてきた。ところが、そんな彼女の願いを無に帰しそうな展開が待っていた。ルシアが不義の子であることをバラされたくなければ金を出せ、と脅されたのだ。
エラリイは、ミセス・アルフレードの依頼を引き受けて、恐喝犯を探すことにした。おそらくは下宿人の誰かが恐喝犯なのだろう、と見込んだエラリイは、自らも下宿して秘かに犯人を捜すが、いっこうに手掛かりをつかむことができなかった。
ところがある日ルシアが絶望のあまり、自殺を試みてしまう。その現場で、ルシアを助けることに成功したエラリイは、同時に恐喝犯を指摘した！
クイーン検察局第一話目はまずは軽めの作品から、というわけではないだろうが、それほど凝ったプロットも用いられておらず、推理もそれほど難しくない。日本人の読者にはわかりにくいネタではあると思うが。
コロラド州のウィキャップにて行われる予定だった、チャンプとビリイ・ボロの選手権試合の当日、なんとビリイ・ボロが東部から来たギャング？に誘拐されてしまう。身の代金は１０万ドル。ボロの身柄もさることながら、今回のウィキャップでの選手権試合のプロモートには莫大な費用がかかっていた。ビリイの身柄を取り戻し、試合を開催するため、エラリイが身の代金を持参することになった。
犯人側は、直接姿を現さず、やはり代理人としてスポーツ記者の長老格サイム・ジャックマンを立てたらしい。エラリイはジャックマンと落ち合い、金を引き渡した。ところが、エラリイはビリイが無事に戻ったのを確認すると同時にジャックマンを殴り倒した！ 果たして、彼との会話から、エラリイは何を見出したのか？
エラリイ、ボクシングを観に行って大活躍篇その２、とでもいうべき作品。『エラリー・クイーンの新冒険』のスポーツ探偵もの以来のスポーツを扱った短編である。本編から、エラリイはそこそこボクシングに詳しいことがよく分かる。かつて、懸賞拳闘など野蛮性の発揮以外の何ものでもないみたいなことを言っていたのが嘘のようだ。伊達に彼女連れてボクシングの試合を観に行っているわけではないらしい（笑）。ただ、、本当に右＊＊＊をライト＊＊＊というのだろうか？ 『リングにかけろ』では、“ブラックスクリュー”は、ライト＊＊＊と言われていたような……
セオドア・フッドの二人目の妻セーラは、前妻の二人の娘ペネロピとライラに対して、夫の遺産問題に関連するあることについて宣告した。それは、遺産相続を早めるために、どちらかがセーラを殺そうとしていることに対する警告だった。さらに、セーラは予防措置を講じていることを二人に告げ、自分を殺そうとするのは無駄な行為であることを指摘した。
ところが、それにもかかわらず、セーラは再び毒を飲まされたのだ。寝室の窓には鉄格子をはめ、扉には新たな錠前を取りつけ、そのただ一つの鍵はセーラが所持していた。食物は自分で購入し自分で調理し、そのための調理具、食器なども新しく購入して自分以外の人には触らせなかったにもかかわらず。エラリイは、夫人が神経質になっているだけだと指摘したが、１０日後セーラは毒死してしまう。
完全密室にして不可能犯罪の極致を前に、エラリイは苦悶の末、ようやく犯行手段を発見した！
傑作。この犯行手段は、推理小説のネタばらし本で必ず取り上げられているほどのもの。ただ、最近では、このような手段で毒を盛るのは難しいだろう。その点、時代の変化というものをどうしても感じてしまう。
スプーナリズムで知られたホープ教授は、フランシス・ベイコンとウィリアム・シェイクスピアが別人であるという確たる証拠を入手する予定を同僚に話していた。１００００ドルという購入金額は、その価値からすれば安いが、ホープ教授にとっては大金だった。エラリイは、購入取引までの間、自室に鍵をかけて待っているよう教授に言うと、クイーン警視と共に取引の時間に学部長室を訪れた。
そして二人は、頭部に一撃を喰らって倒れているホープ教授を発見した。しかも金は失われている。教授は「本をとられた、ゴーマン」と言い残して気絶してしまう。だが、同僚のゴーマン教授には確固たるアリバイが存在した。果たして、エラリイは、金を取り戻すことができるのか、そして、ホープ教授の言葉の真意は？
コメントに困る系の作品(^^;)。やっぱり日本人にはわかりにくい。
フォア・ブラザーズ株式会社の経営を担っていたデイヴが亡くなってから２年後、デイヴの未亡人デイジイは、ブラザーズ株式会社の他の重役アーチボルト、エヴァレット、チャールトンが豪遊のために売ってしまった株を秘かに買い集めたことにより、自分がフォア・ブラザーズ鉱山会社の当主となったことを宣言した。そして、起業当時の決め事により、残りの株を全て株券発行当時の金額で買い取ることを３人に告げた。それは、ストリッパー出身のデイジイが、３人の義兄弟とその妻たちに味合わされた苦痛に対する復讐だった。
ところが、株券を持参しなければならないその日に、デイジイは殺されてしまう。３人の兄弟のうち誰かがやったに違いないが、口を示し合わせているため、誰がやったかわからない。クイーン警視が地道に捜査を進めようとするのを、エラリイは現場に残されたレインコートを一目見て犯人を言い当てた！
ある意味時代の変化を感じさせる作品だが、別の意味では現在でも通用する作品。自動車の知識があって、道交法に精通していれば（もちろん日本の）、エラリイ同様に犯人を言い当てることができるだろう。
ある日の午前６時、公園酒場でならず者として知られていたシェークス・クーニイの刺殺死体が発見された。ウィルキンス騎馬巡査が発見時に居合わせた３人の男を確保したのだが、彼らは大政治家と財界の巨頭と政党の幹部だったため、クイーン警視を悩ませることになる。
さらにクイーン警視を悩ませたのは、クーニイが死の間際に角砂糖を握りしめていたことだった。このダイイングメッセージは、いったい誰を示しているのか？ クイーン警視は、エラリイに協力を求めた。エラリイが（原稿執筆に悩みつつ）知恵の限りを振り絞って得た結論とは？
騎馬警官というのは日本ではあまり目にすることがないが、アメリカやイギリスではけっこうお馴染みの存在である（シュワ映画『トゥルー・ライズ』で、バイクで逃走するテロリストをシュワが騎馬警官の馬を徴発して追いかけるシーンが印象的であろう）。そのようなことに関するバックボーンがないと犯人を指摘するのは難しいかもしれない。
１０年前起きたマンハッタン給料強盗事件の犯人フィリイ・ミュレーンが釈放された。強盗事件とき奪われた金は未だに発見されていなかったため、警察は彼を追跡したが、尾行に失敗してしまう。そして、以前宿泊していたことがあるホテル・チャンセラー９１３号室で、彼の遺体が発見された。
どうやら金は、この部屋に隠していたらしい。しかし、すでに金は持ち去られた後であった。金を持ち去った相手は、前回の強盗事件で彼に出し抜かれた給仕マイキイか、ピッツバーグ・ペインシェンスのどちらかか、あるいはまったく別の者なのだろうか？ エラリイはヴェリー部長刑事が浴室から持ってきた新しいタオルと、フィリイの髭剃り跡から犯人を突き止めたというのだが……？
ホテルという舞台を上手く活かした作品。鑑識調査をすれば速攻で犯人がわかるという事件でもあるのだが、エラリイの推理の切れ味がこの作品をすっきりとした小品にしているのである。
ミセス・アンドラスは１００万ドルもの遺産を譲り受けていたが、身寄りがなかった。彼女にとってもっとも身近な存在は、愛鳥である３８羽の九官鳥だけだったので、ミセス・アンドラスは遺産を九官鳥に譲ることにし、弁護士のデ・ローズと主治医のクック博士に基金の管理を委せ、話相手のミス・バゴットを後見人とすることにした。
彼女のもう一つの楽しみはコントラクト・ブリッジであり、この日もデ・ローズ氏とクック博士、ミス・バゴットを相手にブリッジをするはずだった。だが、その場でミセス・アンドラスは、彼らが自分の財産を横領していることを指摘した。逆上した彼らは、ミセス・アンドラス殺害を思い立ったのだが……。
エラリイとクイーン警視が駆けつけたとき、ミセス・アンドラスは殺されていた。彼らが逃げ出す間もなく駆けつけたため、３人を拘束することはできた。だが、誰がミセス・アンドラスを殺害したのだろうか？ 九官鳥の一羽が「カット、カット！」と叫ぶのを聴いたエラリイは、犯人を即座に示した！
駄作。全然推理の問題になっていないし、ショートショートとしても切れ味が全くない。
シェイクスピアの研究家でもあるスコットランド・ヤードのバーク警部は、ある密命を受けてニューヨークに現れた。とある令嬢が、かつて送った恋文が公になってしまうのを阻止し、もって政治的・外交的に重大な支障が生じるのを防ぐためである。その恋文は、もはや元の持ち主の元にはなく、クイーン警視たちの頭を痛めさせている３人の悪人――国際的な宝石泥棒ウィリアム・アックリー・ジュニア、詐欺師の“書家”Ｊ・フィリップ・ベンソン、トランプいかさま師のウォルター・チェイス――のうち誰かが所持しているらしい。バーク警部は、金で恋文を買い取る役を果たさなければならないのだった。
ところが、バーク警部は死体で発見された。状況と、彼が残した遺書から、彼は恋文を取り返すことができず金も奪われてしまったため、失敗と絶望とから自殺を選んだに違いないと判断された。３人のアリバイも調べられたが、３人ともアリバイを持っており、それを覆すほどの証拠も見つからなかった。
しかし、クイーン警視がエラリイに対してこぼした愚痴から、エラリイは今回の事件の真相を突き止めた！ 若い警官が犯罪クイズにうつつを抜かしている、という話を聞いたエラリイは、いったい何を根拠に真相を見極めたのだろうか……!?
日本人にはわかりにくい謎を使った小品。特別な傑作というわけではないが、登場人物にそれぞれ個性が設定されており、名手クイーンの腕の冴えというものを感じさせてくれる。
スキーを楽しむためライツヴィルを訪れたエラリイだが、タクシー運転手のエド・ホチキスの頼みを聞き入れなければならなくなった。彼の又従姉妹のマミー・フッド・ホイーラーの息子デルバートが、義父であるアンソン・ホイーラーの従業員のための給料を強奪したという疑いがかけられている、というのだ。街の人々は、デルバートが犯人であることに疑いを持っていないが、エラリイはこの事件の解決に尽力することにした。
確かにデルバートは、義父であるアンソン・ホイーラーに良い気持ちを抱いていなかったらしい。デルバートは、義父の会社に雇用されたとき、労働者の権利についてアジ演説を行っているところを義父に見られたため、即座に解雇されたのだ。その恨みを晴らすために、アンソンを殴りつけ、1万５０００ドルを強奪したのだろうか？ その証拠として、デルバートのハンカチが現場付近で発見され、しかもジープ・ジョーキング巡査が現場付近にいた彼を逮捕しようとして、崖から落ちるという事故を起こしたのだ。
エラリイが、デルバートが逃げた道路の東側ではなく、西側の雑木林を探ってみると、そこに強奪された金が隠してあったのが発見された。盗まれたときそのままの包装がされた金は、そのほとんどが雨風にさらされたために腐っていた。それ以外の物品は見つからなかったが、エラリイはこれこそが犯人を指摘する重大な証拠だとして、犯人を探し当てた！
ライツヴィルものの短編。『十日間の不思議』後の話なので、当該作品に登場するジョーキング巡査、デルバート・フッド、ウルヴァート・ヴァン・ホーンなどが登場する。彼らについては、『十日間の不思議』の書評で再びお目にかかることになるだろう。
さて、本作は小品ながらもよくできた作品であり、ライツヴィルものらしい、登場人物の個性が際だちながらも、推理小説としてよくできている作品である。ことに、犯人を指摘するための証拠の取扱いについて、エラリイの推理が冴えており、作家クイーンの手際の良さがよく表れていると言えるだろう。
アムステルダム街に事務所を構えるシオドア・Ｆ・グルースは、利殖の天才として近隣に名を轟かせ始めていた。なにしろ、彼に金を預けると二倍にして返してくれるのだ。生活に苦しむ多くの人が、彼に金を預けていたが、それを知ったエラリイは憂慮する。預かった金を他の顧客に返済し、それを繰り返して多額の金が集まったら逃げ出してしまう、というやつだ。エラリイは、クイーン警視に取り締まりを要請した。
クイーン警視とヴェリー部長刑事が事務所で待っていると、やがてグルースが姿を現した。警察本部への同行を求めると、グルースは用事を片づけてから、ということで事務所の一室に入っていった。そして、事務所の雇員であるアルバート・クロッカーが事務所にやってきて、グルースの入った部屋に行ってみると、なんとグルースの姿はそこにはなかった！
“魔法使いと呼ばれた男”グルースはどこへ消えたのか！ エラリイは、この謎を見事に解き明かす！
それほど難しい謎解きではないが、切れ味はそこそこある作品。ホームズ式推理法を展開させれば、誰でもこの事件の謎を解き明かすことができるだろう。
三番街の高架鉄道の下で質屋を営んでいたマラーチおやじは、絵に描いたような守銭奴だった。彼の唯一の楽しみは本の蒐集であり、さらに蒐集した書籍を全て読破することだった。そんなマラーチおやじの身寄りといえば、彼の主治医であり二軒隣りに医院を開いているベン・バーナード医師と、向かい側で絵葉書屋と貸本屋を営み、マラーチおやじの目が見えなくなってからは代読を行っていたイーヴ・ウォレンだけだった。
そんなマラーチおやじに、ついに最期の時が来た。彼は遺産相続人として、ベンとイーヴを指名した。その遺産総額はなんと四百万ドルだという。だが、マラーチおやじは、その遺産の在処を語る前に、息を引き取ってしまった。
パズルがなによりも好きなエラリイは、マラーチおやじの遺産捜索を手伝うことにした。イーヴによれば、マラーチおやじは生前自室にその手がかりがある、と言う。エラリイは、その言葉でマラーチおやじの遺産を探し出すことに成功した！
軽めの作品。ただし、正解を得るためには、本に対してのかなりの知識を必要とする。古書蒐集家のエラリイであればこそ解決できた事件であろう。
しかし、マラーチおやじのように本を読んでいるのだろうか、エラリイ？ フォーコナーの本は、皮装幀に脂を塗るためのものではないんだぞ(^^;)。
宝石強盗ダイヤモンド・ジム・グレイディは、その手際の良さとドジを踏んだ仲間は必ず殺すという非情さによって、これまで司直の手が伸びることはなかった。だが、彼の愛人リズベットが、彼に捨てられる前にモントリオールに逃げ延び、保護と赦免を申し立ててからは事情が変わった。リズベットが、二年十か月もの間ジム・グレイディとともに生活をしていたので、彼の仕事上の秘密――その中には、仲間だった二人の埋葬場所も含まれる――を知りすぎているためだった。
グレイディ逮捕のため、クイーン警視はリズベットの身柄を確保するために、計画を立て始めた。高所恐怖症のリズベットを飛行機で連れてくることはできないし、自動車では危険が大きすぎるため、急行列車を利用することを考慮した。囮の警官を急行列車に乗せ、本物のリズベットを普通列車に乗せて連れてくるという計画だ。だが、グレイディがリズベットを見逃すわけがない。慎重を期して、クイーン警視とエラリイは、その途中で自動車に乗り換えさせることにした。
やがて、リズベット護送が開始された。計画通り、部下のピゴットとヘスが替え玉のブルースガード婦人警官が急行列車に乗り込み、ゴールドバーグとジョンソンがリズベットを連れて普通列車〈雪つぶて〉号に乗り込んだ。クイーン警視とエラリイは、ワポーグ駅でリズベットを迎えるため、車ででかけた。
しかし、定刻を過ぎてもワポーグ駅に〈雪つぶて〉号は姿を現さなかった。前の停車駅であるマーミオン駅からは、定刻に列車は発車したという連絡が来た。しかし、ワポーグ・マーミオン間の線路に〈雪つぶて〉号はいなかった。それどころか、この区間には列車を隠せるような場所もなければ、事故を起こさせられるような場所もないのだ。焦るクイーン警視たち。エラリイは、ようやく〈雪つぶて〉号の場所を突き止めた。果たして、リズベットの護送計画は失敗してしまうのだろうか……!?
一杯食わされてしまうのが快感に感じてしまうような作品。鬼面人を驚かすようなトリックは使われていないが、実に小技が効いている。作家クイーンの手際の良さが遺憾なく発揮されていると言えるだろう。
しかし、この作品では、ヴェリー部長刑事泣き言ばかり言っているが、あとでクイーン警視に怒られなかったのか？(^^;)
お前は腹痛を起こした魔法使いのようにわめくな(P.193)
あの女が満足な身体でニューヨークへもどれるかどうかってことには、やくざ馬の引く鉄道馬車の切符を賭けるのもいやだ(P.190)
あのフーディニみたいな手品師が、そんな子供だましみたいな手にのると思ってるんですか？(P193)と、泣き言ばかり言っているのだった
西四十番街のバウエン神父は、難問を抱えていたのでエラリイに助けを求めた。西四十番街にて小金を稼ぎ続けているうちに莫大な金額を溜め込んだミス・ウィッチンガムが相続人を探しているというのだ。ミス・ウィッチンガムには双子の姉がおり、その姉は息子を一人産んでから、朝鮮に渡ったという。バウエン神父は教会の組織を使って、相続人を発見することができた。しかも、二人も！
二人とも、両親に似ていない子供であり、しかも幼い頃の写真などは残っていなかった。さらに、中華人民共和国成立と朝鮮戦争の混乱のため、二人の個人証明書類は当てにならなかった。また、個人的な記憶についても、両人とも同じ記憶を有しているようであり、それはお互いにお互いの過去をすっかり話し合ったことがあるからだ、と主張していた。
果たして、この両人のうち、どちらがミス・ウィッチンガムの本当の身寄りなのか？ エラリイは、メンデリュース・クラゲット共著『法医学と法生物学』という書籍から、真相を突き止めた！
ショートショートのくせに読者への挑戦がある侮れない作品。とはいえ、軽い作品でもある。これなども時代を感じさせる一品、というところであろうか。
賭博を好み、それに耽り得るだけの金を有している実業界を引退した十七人の男たちが作り上げた協会、それが〈賭博クラブ〉である。その会員であるチャールズ・ヴァン・ワイン、コーネリアス・ルーイス、ゴーマン・フィンチがクイーン家を訪れた。彼らは、〈賭博クラブ〉の会員の誰かが行っている賭博のことについて、相談に来たのだった。それは、１日ごとに値段が不安定に変わる株価の予想に関する手紙が送付されてきたということについてのものであり、これまでのところこの三人はその手紙の予想にしたがって大儲けできたのだという。そして、また新しい手紙が送られてきた。それには、七日間で二万五千ドルを倍にする賭けに乗らないか、という内容が書かれており、果たしてこの賭けに乗るべきか乗らざるべきか、をエラリイに相談しにきたのだ。
クイーン警視はどう考えてもいかさまだと主張するが、エラリイは、三人に送付されてきた手紙とその封筒を調べてみてから、この賭けに乗るべきだ、と強く主張した。果たしてその真意は？
これもまた軽めの作品。『あなたのお金を倍に』に比べると、出来は今一であろう。
むろん彼は内部からの聞き込みをしたにきまっています(P.222)
今度こそボールド・マウンテンでスキーをするためにライツヴィルを訪れたエラリイだが、ビル・ヨークのロッジに荷物を置いたところで、デイキン署長に呼び出されてしまう。クリント・フォズディック殺人事件に関して協力を依頼したデイキン署長はとんでもないことを言い出す。自分は犯人を知っているのだが、その犯人名をエラリイの口から聞きたい、と。デイキン署長は犯人が犯行を行った状況証拠や直接証拠をすでに確保していた。しかし、クリント氏が死に際に書き残した言葉“ＧＩ”の謎を解かなければ、裁判時に不利になるかもしれない、と考えていたのだった。
クリントの義理の息子たち、長男ワッシュ、次男リンク、三男ウッディーは、エラリイから“ＧＩ”の話を聞かされるが、一向に身に覚えがないという。だが、エラリイは、“ＧＩ”の謎を解き明かすのに成功した。果たして、エラリイの指摘した犯人は、デイキン署長が握っている証拠が示している犯人と同じだったのだろうか!?
クイーン名物の一つダイイングメッセージもの。アメリカの歴史にそこそこ詳しくて、想像力が少々あれば簡単に解ける謎である。発端の意外性からすると、少々寂しい展開と言えよう。これを元にして短編をものにすれば傑作となり得たのではなかろうか。
今死のうとしている頭脳と筋肉を駆使して奇跡とも言えるほどの死に際の伝言を書こうとする男は、決して手の込んだ気のきいたまねをやろうとは思いませんよ(P.247)なんか、『Ｘの悲劇』でドルーリー・レーンが言っていたことと全然違うような気もするが、あれはバーナビィ・ロスの作品だから良いのだろう、きっと（笑）
何の変哲もない、どこでも買えそうな黒い台帳。しかし、それは全米４８州における麻薬密売人のリストが書き込まれたものであり、しかもそれを書いたのは麻薬密売組織の総元締めだった。この貴重な資料をニューヨークからワシントンへ運ぶため、エラリイは計画を立案し、自ら輸送任務に当たった。
しかし、麻薬密売組織がエラリイを見逃すはずはなかった。キャピトル急行列車の特等専用車に連れ込まれたエラリイは、元締めの前で徹底的な身体検査、持ち物検査をされた。だが、エラリイの身体のどこにも“黒い台帳”は隠されておらず、手荷物品の中にも見つからなかった。パイプを吹かすことだけは許されたエラリイは、文字通り身ぐるみ剥がされてワシントンに到着した。だが、エラリイは“黒い台帳”を当局に渡すことに成功したのだった！
ちょっとアンフェアな作品。クイズみたいなものであればけっこうなものかもしれないが、クイーンの作品となると、手がかりの提示などが上手く行っていないとアンフェアに感じてしまうのかもしれない。
ビリー・ハーパーは不幸な少年だった。ロイド・ハーパーの浮気に端を発する離婚争議に巻き込まれてしまったのだ。セントラルパークを挟んだ屋敷で、金曜の午後にだけ、父親に会うことが許されていたビリーは、セントラルパークを横断している途中に誘拐されてしまう。犯人は、夫の浮気相手ジャリル・ジョーンズか、あるいはロイドに解雇されたことを逆恨みした元運転手ラルフ・クラインシュミットだろうか？
そして、脅迫状が送られてきたとき、捜査陣はあ然とした。２時間後に父親がロスアンジェルス市に身の代金を持って来い、という内容だったのだ！ こんな不可能事を、なぜ犯人は要求してきたのか？ エラリイの推理は、その謎を解き明かすことに成功した！
最後はちょっといい作品。推理力というよりも演繹力を問われる作品に仕上がっている。