ジョンが亡くなってから住む人のいない黒い家は人の住める状態ではなかったので、その夜を白い家で過ごしたエラリイたちだったが、なんと一晩経ってみると隣に建っていたはずの黒い家が消滅していた！
確かに昨日は存在したはずであり、急遽解体した様子もなく、まさしく消滅したとしかいえないこの黒い家の謎を、エラリイの推理は解き明かすことができるのか？
クイーン中編屈指の名作。トリックそのものはあっけに取られるほど単純なのだが、筆致やプロットなどがそれを気づかせることなく、謎を際だたせていると言う点でじつに見事。また、黒い家消失事件の影に秘められた犯罪をエラリイが暴き出す展開もあって、中編とは思えないような内容のある作品である。
ただ、ちょっとばかり疑問があるのは、ガレージに収まっていた車がなぜ乾いていたのか？という点である。このトリックを実行したならば、絶対に車は濡れているはずなのだが。また、エラリイが後ろに注意していれば、トリックを解き明かさずとも犯罪を露見させることができたはずなので、エラリイの粗忽さ加減も指弾されてしかるべきであろう。
酒に弱いことにかけては評判の男(P.58)であるらしい
退役将軍バレット邸に招かれたエラリイは、そこでレオニーの首飾りが盗まれたという事件に出くわす。考えられそうな隠し場所はすべて探してみたのだが、やはり首飾りは見当たらなかった。
そこで、エラリイは宝捜しをすることを思いつく。その過程で盗まれた首飾りが発見できるというのだが……？
短編の佳作。それほど難しい謎があったわけではないが、盗まれた首飾りをいかにして屋敷の外に出すか、という点に着眼しての推理はエラリイならではのもの。犯人を指摘する際に見せたはったりもエラリイならでは？
日本から来た貿易商カジワ・ジト氏の看護を行っていたメリヴェル嬢の訪問を受けたエラリイがカジワ家に行くと、カジワ・ジトが失踪したという騒ぎが起こっていた。
奇妙なのは竜の彫刻がされた石鹸石でできているドアストップも一緒に消えていたことだった。養子のビル・ガラントは、そのドアストップには秘密の隠し場所があって、その中に５万ドルの紙幣が収められていたという。
だが、エラリイの推理はカジワ・ジトの失踪とドアストップ消失の謎を一気に解き明かした。
ちょっとした作品ではあるが、ドアストップの謎を解き明かすための材料が読者に提示されていないという点で、フェアプレイの精神からは反している作品である。
また、カジワの失踪先をエラリイはあっさりと解き明かすが、そこにいなかったらどうするつもりだったのだろう？ 今回の事件では、かならずそこにいるとは限らなかったはずなのだから。
あの小さな、黄色い人たちは、なかなか頭のいい民族で、われわれとは、まるっきりちがったものの考え方をする世界に住んでいます(P.187)って、その物言いは誉めてないぞ、エラリイ(^^;)
カジワさんは礼拝なんかしなかったのでしょう。シントーというのは、どちらかというと、原始的なものですものね(P.191)と語るエラリイ。
ジューナの催促でジョイランド遊園地に遊びに来たエラリイは、疲労困憊しながらも、友人のデュードネ・デュバル称する最高傑作“暗黒の家”に足を運ぶ事になる。暗黒の家は照明器具がいっさいない、真の暗やみに満たされたアトラクションであった。ところが、その家の中でジューナが死体を発見してしまう。
その暗黒の家の中に容疑者は何人かいたが、真っ暗やみの中、どうやって離れたところから犯人は被害者を射殺できたのか？という謎を解かなければ、犯人を特定することはできない。エラリイは、この謎を解き明かすことができるのか？
暗闇の中で、どうやって犯人は離れたところから被害者を撃つことができたのか、という謎はちょっと魅惑的。エラリイはこの謎を見事に解き明かすが、時間があれば警察でも解明できた謎でもあるし、射殺したときに吹き出した血で証拠がすべて隠されたとは思えないのだが。
また、最後のセンテンスの意味がよくわからないという謎もあるが、これについてはまったく理解できない。エラリイは、友人の顔をすぐに忘れてしまうのか？
ナチトウクに遊びに行ったエラリイは、そこでグラメートン家の肖像画にまつわる謎を聞く。不気味なことに、当主の妻が不倫をすると、その肖像画の胸から血を吹くというのだ。
現グラメートン家の当主マークの妻ミミは、ボルカという男からしつこい求愛を受けていた。そんなとき、肖像画の胸に血がこびりつき、ボルカが行方不明になったという事件が起こる。ミミが不倫をして、ボルカは何者かに殺害されたのだろうか？
エラリイは、その肖像画にまつわる謎を一刀のもとに解明する。
不気味なムードは醸し出しているものの、謎自体はそれほど不思議でもなんでもない作品。それほど重視すべき作品でもない。
ヤンキース対ジャイアンツのワールド・シリーズ第７戦を観戦するため、はるばるハリウッドからエラリイとポーラはニューヨークへやってきた。熱狂的ジャイアンツのファンであるエラリイとヤンキースマニアのヴェリー部長、クイーン警視は、球場でビッグ・ビル・ツリーとその夫人ジャディ・スターと女優ロタス・ヴァーンの三角関係に出会した。ファンのサイン攻めにあうビル・ツリーだが、突然昏倒してしまう。エラリイは、即座にビル・ツリーのサインを買い集め始めた。これが、ビル・ツリー殺人事件を解決する鍵になるというのだが……？
スポーツ・シリーズ第１弾。ポーラとスポーツを見物しながらいちゃついている(^^;)間に、起こった事件をエラリイが解決するというスタイルの作品である。このシリーズがこの『エラリー・クイーンの新冒険』にしかないというのは、実に惜しまれる。
さて、この事件は超満員のヤンキースタジアムで起きた事件というわけで、『アメリカ銃の謎』で触れられていた展開なのだが、極めて短時間で解決することができた事件であった。事件の発想や解決法など、クイーンらしく手際よくまとまっている好品であると言えよう。
競馬映画のシナリオを依頼されたエラリイだが、競馬のことはまるで知らないため、ポーラの助けを借りて、ジョン・スコット老人を紹介してもらった。スコットの牧場の競走馬デンジャーは、次回行われる障害競走の大本命と見られていたのだが、ジョンの娘と付き合うのを禁じられたハンク・ホリデーがレース場でデンジャーを撃ってしまう！
やはり、ちょっとフェアプレイの精神から反した作品。事件の起こり方とかはかなりサスペンスフルなのだが、肝心のトリックに切れ味がない。確かに犯人や犯人の使ったトリックはエラリイの言うとおりなのだが、発端に比べると意外性に欠ける部分があって盛り上がらないのだ。
ボクシングチャンピオン選手権見物に出かけたエラリイとポーラ（とクイーン警視）。ところがチャンピオンのマイク・ブラウンは、その実力を発揮せずに挑戦者ジム・コイルに倒されてしまう。ジム・コイルの男っぷりにのぼせるポーラに良い気分がしないエラリイだが、車に戻ってみると、隣の車内で元チャンピオンマイク・ブラウンが死んでいた。
エラリイは、そこで自分のオーバーが盗まれていることに気づく。このオーバーが見つかれば、元チャンピオンを殺した犯人を見つけることができるとエラリイは考えたのだが、果たして……？
よくできた小品。殺人事件とエラリイのオーバーの盗難事件とのクロスオーバーが上手くいっている。また嫉妬に燃える（笑）エラリイや、中期に見せる肉体派エラリイの様相を見ることができるという点でも興味深い作品となっている。
ぼくが出かけると、なにか大騒動が必ず起こる(P.363)とポーラに言うエラリイ。確かにいろいろと騒ぎが起こっている
ローズボウルのチケットを取り損ねたエラリイだったが、ポーラを介して、ＵＳＣ（南カリフォルニア大学）の後援者バップ・ウィングと知り合いになり、なんとかローズボウルの見物をすることができた。
バップは、愛娘ジョアンとＵＳＣフットボールチームのフルバックロディ・クロケットの婚約記念に、１１個のサファイヤをプレゼントしようとするのだが、試合直前そのサファイヤは盗まれてしまう。
果たして、サファイヤの行方はいったい……？
これもまたよくできた小品。トリックと言うほど手の込んだことはしていないが、周囲の人間に対する観察眼を働かせたエラリイがサファイヤを取り戻し、犯人を発見する描写は、実に手際よい。