野川由美子
松原千明
五十嵐めぐみ
平田昭彦

草薙幸二郎
林　未来／山内絵美子
茶川一郎／伊藤達広
稲葉義男／増田再起
岡部正純

喜田晋平／大橋立司
鈴木謙一／菅野直行
伊藤晶子／中根里美
安川真由／高山亜希子
三井　良／小林誠光
司　二郎／愛川真子
八木千秋／小林秀鳳
近藤玲子水中バレエ団

牟田悌三
高橋昌也
 

STUFF

プロデューサー	牧野秀幸（テレビ朝日） 佐々木孟
原作	江戸川乱歩
脚本	宮川一郎
音楽	鏑木　創
撮影	長沼六男
美術	重田重盛
照明	佐久間丈彦
録音	内田　誠
編集	太田和夫
記録	藤山久美子
装置	若林六郎
装飾	印南　昇
美粧	創美・みつおか
スチール	樋口　通
山岳写真	白旗史郎
調音	松竹映像録音スタジオ
衣裳	松竹衣裳
現像	東洋現像所
助監督	増田　彬
進行	高階　光
プロデューサー補	大塚尚史
製作主任	池田義徳
協力	暁プロモーション ホテル山幸閣 （株）ロコ・アトリエ・タカダ 京都・高山 洋服の新紳 （株）田中製作所 大洗水族館
監督	井上梅次
製作	テレビ朝日 松竹株式会社

映像特典
９０秒予告／１５秒予告／ハイライト

STORY：

　ゆかりに連れられて上村が来たのは、ホテル山幸閣だった。同じホテルに泊まることになったことに上村と明智は驚いた。上村がロビーから出て行くのと入れ違いに、河野がスケッチから戻ってきた。河野と陽子、上村、そしてゆかりが河野の部屋へ入ると、そこでは野崎と忍が睦み合っている最中だった。その状況に激怒する河野。そして陽子は、野崎に裏切られたと思い、部屋を飛び出してしまう。そして、今回の不倫を元に、河野が忍の離縁の話を持ち出した。
　ゆかりは、ホテルの地下にある巨大水槽へ向かった。そこでは、河野の兄弟弟子でありながら、彼の世話になっている加賀が、水中ショーの主役であるマキをモデルにスケッチを描いていた。地下でボイラと水槽の管理をしている古田に、いやな話があったから、とゆかりは話すと、頼まれていた歯痛の薬を渡し、普段水中ショーをしているマキの代わりに、魚に餌を与えるため水槽に飛び込んだ。
　一方、上村は、河野に離婚届の用紙を手渡していた。２年間は、月３０万円の生活費を払うことを条件に、河野は忍に対して離婚届を突きつけた。言われるままに判を付いた忍だったが、その時上村が準備よく離婚届を持っていることに疑念を抱いた。そして、野崎や上村の様子から、慰謝料を払うことなく野崎が自分を離婚するための芝居だったことに忍は気がついた。河野を詰る忍だったが、証拠はあるのか？と野崎はうそぶいた。そんな野崎に対して、忍はここに留まって、その陰謀を暴いてやると言い張り、河野が出て行った後に残された上村を詰問した。娘の陽子にだけ財産を渡すため、義母となる自分を追い出すため今回の離婚騒動を引き起こしたのに一役買ったのだ、と。
　野崎もまた、今回の騒動で陽子に対する信頼を失ってしまい、河野に取りすがった。だが、河野は「お前に娘はやらん」と野崎に言い放った。野崎は、陽子を嫁にくれるという河野の言葉を信じて、今回の芝居を打ったのだ。だが、野崎はお前の力量では私の跡を継げん、とまで言って、野崎に背を向けた。
　野崎は、湖畔で黄昏れていた陽子を見つけると、声をかけた。陽子に拒絶された野崎だったが、今回のことは貴方のためにしたことだ、という言葉で陽子を繋ぎ止めた。そして、野崎は今回のことを陽子に話し始めた。心臓が悪い河野のことを考えていた忍は、毎日のように河野に遺言状を書くよう言っていた、と。それに嫌気がさした河野は、娘の陽子に財産を与えるため、今回の芝居を計画したのだ、と陽子に語る野崎。野崎は陽子に対する気持ちは変わらないと告げたのだが、陽子はそれを拒絶してしまう。怒りにうち震える野崎。
　シャワーを浴びてきた陽子は、自分のベッドになにかが置かれているのに気付いた。それを手にした陽子が目にしたものは、後頭部が削られ、ドクロが描かれたこけしだった。部屋に駆け込んできた陽子に、ゆかりはこのホテルに名探偵の明智が泊まっていることを告げ、明日になったら協力を頼んでみよう、と言うのだった。

　翌朝、忍はティーラウンジで野崎を見つけると声をかけると、いずこかへと連れ出した。
　一方、ゆかりはホテルの売店で、陽子を脅したこけしを売っていないことを確かめると、同型のこけしをつくっている職人の元へ話を聞きに行った。それに拠れば、そのこけしは、職人が作ったこけしの後頭部を誰かが削ったものらしく、その手は素人のものだという。
　そんなことは露知らず、明智探偵事務所の一堂は、久々の休暇に思う存分羽を伸ばしていた。波越警部からの応援があったとしても、休暇を継続することを明智が断言するほどに。ボートに乗って楽しんでいた明智と文代、小林だったが、湖畔から声をかけられ、そちらへと向かった。声の主は忍だった。忍は、自分が離婚させられた陰謀についての証拠を明智に調べ上げて欲しいと依頼したのだが、休暇中だから、ということで明智は腰を上げようとはしなかった。だが、忍はそれをものともせず、ロビーで待っていると明智に告げると、その場を立ち去ろうとした。その途中、ゆかりと顔を合わせた忍は、今回の事件は仲がよく、河野もまた気に入っているゆかりを自分の家族へ迎えるための陽子の仕業に違いない、とゆかりに言い放った。
　その揉め事をボートから見かけた明智は、有名画伯とその妻、そしてモデルとの三角関係、と推察した。モデルのゆかりは先生好みだから、力を貸して上げれば？という文代に対して、折角の休暇だからそういうことには触れたくない、と明智は答えた。
　昼食のためホテルに戻ってきた明智たちだったが、午後１時の水中マリンショーを見ることにした。魚たちに餌をやる水着の美女を期待して、ロビーに集まっていた人たちだったが、大型モニタに映し出されたのは全裸の――息絶え、水中に沈められた陽子だった。そして、明智はその場にやってきた忍の異様な表情に目を止めた。
　愛娘が殺されたことに愕然とした河野は、陽子を殺したのは忍に違いないと主張した。運び出される陽子の亡骸を追ってホテルの外まで追いかけようとした河野だったが、心臓発作を起こし、倒れてしまう。
　水槽のそばでは、古田の事情聴取が行われていた。古田は管理人室で、ロビーに送る映像の制御を行っていることについて、長野県警の刑事たちに説明をし、午後１時と５時に水中ショーが行われることについて、説明をした。事情聴取に、古田は昨夜の１１時半までゆかりとロビーで話をしていて、今朝の６時半から９時まで水槽の掃除を行ったあと、歯痛の薬のためモニタのスイッチを入れるのを忘れて寝込んでしまい、１２時を過ぎた頃に目を覚まして昼食を取ると慌ててモニタのスイッチを入れた、と答えた。刑事たちは、地下室に繋がっている裏口から死体を運び込んだに違いない、と考えた。古田に拠れば、裏口の鍵は事務室に置いてあるが、非常口にもなっているため、鍵はかけられていない、ということだった。刑事たちは、支配人にも事情聴取して、古田の証言の裏を取った。それに拠れば、１１時頃に用事があって管理人室へ行ったところ、確かに古田は眠っていたという。
　ティーラウンジで、明智たちは、ゆかりから陽子の部屋へ置かれていたこけしの話を聞いていた。１１時半頃、ゆかりはこのこけしを調べるため、陽子を置いて一人で出かけていたという。ゆかりは、今回の事件の後、殺されるのは自分ではないか、と明智に相談を持ちかけた。こけしを置いたのは誰なのか調べて欲しい、というゆかりに、滞在中は仕事をするつもりはない、そのこけしのことを早く警察に相談した方がいい、と答える明智。文代と小林は、自分たちが今回の事件の関係者になっているのだから、調査をすべきだとはりきり始めたのだが、明智にその気はないようだった……。
　しかし、捨てる神あれば拾う神あり？　東京で起こった事件の裏取りのため蓼科警察署を訪れていたのは波越警部だった。持ち前の好奇心から、今回の事件のことについて聞き込む波越警部。死因は絞殺で、死亡時間はこの日の１１時前後ということを波越警部に説明した署長は、このような事件は例がなく、容疑者が呼んであるので波越警部にオブザーバとして話を聞いて欲しい、と頼んだ。
　容疑者として勾引されていたのは忍だった。同席していた弁護士の上村の許可を取ると、忍は黙秘を止め、河野が自分を離婚して陽子に財産を残すため、一芝居打ったことを話し出した。そして１１時前後のアリバイを聞かれた忍は、その頃明智と逢っていたことを口にした。その言葉を聞いて、波越警部は、明智がそのホテルに泊まっているからには、事件は解決したも同然！と署長に言うのだった。
　ホテルへ明智を訪ねた波越警部だったが、明智は休業中なので事件にはタッチしないと言い張った。だが、小林に焚き付けられ、波越警部には目の前で事件を起こした犯人からの挑戦に応えなければ男が廃るとまで言われ、さらには古田が責任を感じて寝込んでしまった、ということ等の事件の事情を既に聞き込んで来た文代に押され、明智は休暇中ずっとつけていたサングラスを外し、事件に対して立ち向かうことを決意するのだった。

　１１時頃陽子を殺し、ホテルの裏口から死体を運び込んだことから、犯人はこの付近の事情に詳しい人間であると明智は考えた。さらに、あの殺し方から考えて、犯人は深い憎しみを持っていたはずだ、と口にした。明智たちは、管理人室へ行き、古田から改めて話を聞くことにした。昼食を取ったあと、文代から、水槽の前を通ったとき死体に気付かなかった理由について聞かれた古田は、モニタを通して水槽を管理する癖がついてしまったので、と答えた。その時、明智は管理人室の壁にかけられていた山の写真に目を止めた。どこの山か、と明智に訊かれた古田は、もらい物なのでどこの山かはわからない、と言った。
　今回の事件について一堂から事情を聞くため、明智は場所を設けた。河野の看病をしていたゆかりもその席に座った。１１時頃のアリバイについて訊かれた加賀は、白樺林に一人でいたと答え、上村は河野と碁を打っていたと答えた。野崎は、４０５号室に一人でいた、ということを聞いた明智は、ドクロが描かれたこけしについて質問をした。誰も心当たりがない、と聞いた明智は、野崎に対して腕に怪我をしているはずだと言った。明智の言葉とおり、野崎は右腕に包帯を巻いていた。その傷は、忍にナイフで切りつけられたものだ、と野崎は言った。その時、野崎は忍に対して、今回の事件は河野も上村も相談しあって知っていた、と言ったのだった。その傷の手当てをしていたため一人でいたので、陽子を殺すことはできないという野崎だったが、しかし動機は残っている、と忍は指摘した。
　さらに、加賀がゆかりにも陽子を殺す動機がある、と言った。河野と結婚しても、陽子が生きていては、財産を独り占めすることができないためだ、と。上村も、河野がゆかりと結婚する意志があった、と話した。
　小林は、別に聞き込みを行っていた。そこで、ロビーのスナックで１０時半頃陽子を見たという証言を聞き込んでいた。その場にはゆかりもいたという。その後、ゆかりは売店へ行き、陽子は一人で外へ出ていったとの話だった。
　一方、文代は、水中ショーを行っている西沢マキが、どこかへ妖しげな電話をしているのを目撃した。マキの後を追った文代は、地下室を通ったマキが加賀と会ってどこかへ行くのを見送った。古田はエアパイプを直し、水槽には３本の泡が立ち上っていた。そんな古田に、文代はマキと加賀の関係を聞いた。マキと加賀が親しいのは知っているが、それ以上のことは、と古田は言った。
　マキは、加賀に２００万円もの無心をしていた。ヨーロッパを旅行した際にサラ金に金を借りたのが、利子が雪だるま式に増えてしまったから、と加賀に言ったマキは、死んだ陽子から、河野と加賀との特別な関係を聞いているから、と加賀を脅すのだった。

　河野の容態は安定したが、今ここから動くことはできそうになかった。陽子の亡骸はここで密葬して、東京へ戻ったときに改めて葬儀を行う、ということを、上村は警察署長へ説明していた。手続きのため、所長が去ったあと、河野は犯人が忍だと上村に重ねて言った。そして、明智に今回の件について調査を依頼することを、指示した。その一方で、河野は忍との離婚届について、上村に聞いた。上村は東京へ既に送ってある、と答えた。上村が部屋を出たあと、河野の前に加賀が現れた。河野の絵の下絵を描く生活を辞めたいという加賀は、当座の生活費として５００万円を河野に要求した。それを断った河野だが、「霧ヶ岳を描く」という加賀の言葉に、屈してしまう。
　東京へ離婚届を送った、という上村の言葉は、実は嘘だった。忍と同衾した上村は、河野の指示に従って、５００万円を貰うことを約束して、離婚届を作成するところまでは行ったが、その後の手続きをすべきかどうか迷っている、と言うのだった。自分と組めば報酬はいくらでもという忍だったが、その河野が死ななければ遺産は手に入らない。河野の心臓が弱っていることから、もう一度ショックを与えれば、とつぶやく忍。

　明智と波越警部は、ホテルの部屋で今回の人間関係を整理していた。アリバイのない加賀は、河野に縋らなければ生きていけないという河野に対する恨みから、娘を殺したに違いない、と波越警部は推理した。そんな推理を笑った文代は、０時前にゆかりの部屋へ行くという約束を思い出すと、席を立った。
　その頃、ゆかりは、自分のベッドの中にあのこけしが置かれているのを知った。部屋に来た文代に、ドクロのこけしを見せるゆかり。文代はゆかりを明智の部屋へ連れて行くと、自分は再度ゆかりの部屋を調べるため出て行った。明智は、ゆかりに河野との関係を聞いた。ただの画家とモデルとの関係、というゆかりに、河野は関心を抱いている、と訊き返す明智に、ゆかりもそれを認めた。ゆかりは、高校２年の頃から生活のためにモデルを始めたという。父親を数年前に、母親を４歳のときに亡くしたというゆかりは、２年前から河野のモデルになったということだった。その辺りの話を聞いた明智は、ドクロのこけしが陽子とゆかりに送られて来たということは、二人の間に何らかの共通点があるはずだが、とつぶやいた。強いて言うなら、二人とも早くに母を亡くしたということでは、というゆかりの言葉を聞いて、考え込む明智。
　その頃、マキは地下室へ足を踏み入れていた。誰かを探していたマキだったが、その目に飛び込んで来たのは、吊るされたドクロのこけしだった。それに驚いたマキは、背後に現れたドクロマスクをかぶった怪人に首を締められてしまう。翌日、湖畔で、死体となったマキが全裸で逆吊りにされているのが発見された。
　マキが借金をしていたことから、陽子殺しの犯人を知っていたマキが犯人を脅し、逆襲されたのだろうかと考える明智。それならば、加賀が怪しいということになる。マキの死因は絞殺であり、死亡時刻が０時前後であることから、裏取りが難しそうだと悩む波越警部。そんな時、古田から電話が入った。古田の部屋で、明智と文代が話を聞こうとしたとき、ゆかりがやってきた。マキの代わりに水槽の魚を餌付けするから、と言って出て行ったゆかりが二本の空気の泡を縫うように魚に餌付けをする姿が、モニタに映し出された。警察が嫌いだから、という古田は、地下室で怪しい物音を聞いたことを明智に話した。
　と、その時モニタに怪しいドクロマスクをかぶった男が映し出された。ドクロの男は、ゆかりに襲いかかった。その様子を見た明智は、管理人室を飛び出そうとしたが、鎖がかけられ開けることができなかった。鎖を引きちぎり、水槽へ向かった明智は、そこにゆかりが倒れているのを目にした。襲いかかってきた男が逃げ出したことを聞いた明智は、ホテルの裏口へ向かった。文代はフロントへ向かったが、地下室から出て来た人物はいなかった。地下室へ戻ってきた明智は、文代から事情を聞くと、裏口にも誰もいなかったと言った。と、誰何するかすかな声が聞こえた。声の方へ向かった明智と文代が見たのは、ひどい格好をした上村が助けを求めている姿だった。上村に拠れば、自分の部屋で昼寝をしていたはずなのに、気がついたらあの場へ転がされていたということで、何者かに一服嗅がされたに違いない、というのだが……。
　文代は、ゆかりから話を聞いていた。ドクロのマスクをかぶっていた人物に心当たりはないというゆかりは、河野と自分が結婚するに違いないと思い込んでいる人が犯人ではないか、と文代に言った。確かに河野が結婚すれば何億という財産はゆかりのものとなる、と言った文代に、河野と結婚するつもりは全くない、とゆかりは強く否定した。
　地下室へ再度戻ってきた明智は、水槽から立ち上る三本の空気の泡に目を向けると、強く輝いた。
　河野の部屋へ向かった明智は、横たわる河野のそばに置かれた医療機器に気がついた。ゆかりが襲われたことを聞いた河野は、心筋梗塞の発作を起こしたのだった。昔はこんなに弱い男ではなかったのに、という加賀は、昔は二人で山に登って風景画を描いていたことを話し始めた。遭難しかけたこともあったらしい。その山の名を明智に訊かれた加賀だったが、今までの話を忘れたかのようにごまかしてしまうのだった。
　今までのことを考え込んでいた明智は、突然小林に日本中の山の写真集を買いに行かせた。そして、河野陽水の画集も合わせて買うように、と。

　果たして、明智はその絵から何を見出したのか!?
　錯綜する人間関係から浮かび上がる驚愕の真相とは!?
　そして、恐しいドクロを残しながら殺人を繰り返す、犯人の正体は!?

感想：

モデルに気を寄せ、後妻を捨てるため、不貞の芝居を仕組んだ画家

不貞の芝居の片棒を担ぎつつ、自らの利益を得るために捨てられた後妻と深い仲になる弁護士

不貞の芝居の主役をしたために、恋人に見放され、恨みに燃える画家の弟子

画家にたかって生きている一癖ありそうな友人

画家に言い寄られているモデル

不貞を見せられ、恋人を捨てた画家の娘

　やはり衝撃的なのは、作品冒頭での不貞騒ぎであろうか。タイトルロール前に師の妻に言い寄る野崎のねちっこいシーンがあって、河野たちが部屋に入ったらベッドで組んずほぐれつの真っ最中、という展開である。この衝撃的な出来事から本作が始まるわけだが、ここは野川由美子の演技が観る者の目を離させようとはしない。自分が罠にかけられたことを知ると、それに対して反撃するために、元々は河野側の弁護士、上村を籠絡してしまうという展開にはまた驚きである。この二人が、河野の財産を独占しようとするために、河野の死を目論むシーンなどは、サスペンスドラマが好きな人は大喜びだろう。
　しかし、怪しいのはこの二人だけではなく、画家の弟子も、師と恋人に裏切られたことへの恨みを抱き、河野の友人、加賀もホテルの水中ショーのヒロイン、マキと深い関係になってから怪しい動きを見せ始める。もう、誰が真犯人であっても不思議ではないこの事件において、事件の真相と真犯人を見つけ出す明智先生は、さすがに慧眼と言えよう。

　ただ、推理の部分は、ちょっと視聴者に対して親切すぎるかな、という気はする。明智先生が真相に辿り着いたシーンを見れば、視聴者も犯人の予想が付いてしまう。しかも、その後駄目押しのように、犯人を予想させるようなシークェンスが挿入されているので、ここまで見て犯人が分からない、ということはまずないだろう。後半も大詰になってからならともかく、後半の冒頭でこのようなシーンが出されてしまうのは、ちょっと構成ミスという気がしないでもない。
　さらにつついてみると、犯人の動機も、意外ではあるが果たしてどうかな、という感じもある。『バカミスの世界』掲載のＰ・Ｇ・ウッドハウス著「ミステリ小説に関する二、三のこと」において、ミステリ小説の悪役として“三十年間も薄れることなく、なまなましい遺恨をもちつづけている男”は不適当であるという旨を記しているのだが、本作の真犯人はそれにもろに該当してしまうのである。遺恨によっては、あるいは状況によっては、何十年遺恨を抱いていても問題はないと思うが、本作の場合だとどうかな？という気がする。ここらへん、遺恨の主が長い間わからなかったとかなんとか、もう少し理由付けが必要だったのではなかろうか。

　さらに明智先生にも問題がないではない。

私は事件が解決に向かったとき、いつも自分の力の無さを痛感します。もう少し早く気がついていたら、貴方の罪を少なくすることができたのに、と……

　さて、本作にて、これまで《美女》シリーズの監督をしていた井上梅次は降板、文代役、小林役の役者さんも変更となる。それは、このシリーズにいろいろな意味での変化をもたらすことになる。その話は、to be continue…ということになるが、とまれ井上監督作品は本作が最後ということになる。
　《美女》シリーズにおける井上梅次最終作品がどういう仕上がりになっているのか、それはぜひ機会を見つけて確かめられてみるといいと思う。
 

見どころ：

私にわかるのは、どんな恐しい事件の裏にも、深い人間の哀しみが秘められている、ということだけです