沖　晴美	岡田奈々
佐藤桃子	奈美悦子
真下幸彦	中条きよし
伊勢省吾	待田京介

STUFF

プロデューサー	植野晃弘（テレビ朝日） 佐々木孟
原作	江戸川乱歩
脚本	成澤昌茂 井上梅次
音楽	鏑木　創
撮影	滿井坦彦
美術	梅田千代夫
録音	鈴木正男
照明	石渡健蔵
編集	太田和夫
記録	桜木光子
助監督	増田　彬
装置	藤田雄彦
装飾	町田　武
結髪	三岡洋一
美粧	森　章子
衣裳	松竹衣裳
調音	松竹映像録音スタジオ
現像	東洋現像所
進行	小松　護
プロデューサー補	中川滋弘
将棋指導	東　公平
製作主任	沼尾　鈞 大川　修
衣裳協力	株式会社ロコ・アトリエ・タカダ
協力	伊東温泉 ホテルゑびな ＭＡＺＤＡ
監督	井上梅次
製作	テレビ朝日 松竹株式会社

映像特典
９０秒予告／１５秒予告／ハイライト

STORY：

　その沖晴美は記者のインタビューを受けていた。その中で、新しいマンションを買ったことについて聞かれ、さらにそのマンションは、彼女が所属するエメラルド・プロの社長伊勢省吾に買ってもらったものではないかという質問を受けるが、マネジャーの真下幸彦がそれを否定した。また、彼女の兄である沖良介が伊東で将棋の名位戦を挑んでいる最中であることについても、質問を受けた。早くから両親を亡くしたこともあって、良介は晴美のことで苦労をしてきたのだった。記者たちにとって、将棋のビッグタイトルに挑む天才棋士である兄と、人気歌手である妹の二人は、記事を書く上で注目すべきネタ元なのだ。

　晴美を家に送る途中、真下は晴美が社長に男女としての仲でないことを確かめると、彼女に独立を持ち掛けた。だが、３年契約を結んだ代償としてマンションを買ってもらった晴美は、真下の言葉を退けた。兄の良介が来るために、明日の予定は全てキャンセルした、という真下は晴美に対して好意を打ち明けたのだった。
　一人部屋に戻った晴美を、社長の伊勢が花束を持って訪れてきた。引っ越し祝いと新曲が５０万枚を突破したことを合わせて祝いに来たという伊勢に対して、妙な噂が飛び交っている事について恐縮する晴美だったが、ショウビズの男らしく伊勢は気にしていなかった。ただ、伊勢の妻は霊言教という新宗教にのめり込んでいる、という。話は名位戦の第一戦を戦っている兄の良介に及んだ。良介は、昨日は敗北したが、今日の夕方のニュースでは五分五分の状況にまで持ち込んだということだった。
　その時、伊東にいるはずの伊勢の妻が晴美に襲いかかってきた。伊勢の妻は、伊勢と晴美が男女の関係にあると思い込んでいたのだ。伊勢の妻はナイフをふり回し、晴美を浴室へ追い詰め、ドアに鍵をかけた。そして、伊勢の妻は、晴美と揉み合っているうちに、ナイフを自分の胸に突き立ててしまった！　晴美は扉を開け、伊勢を浴室の中に入れた後、気を失ってしまうのだった。
　気がついた晴美に、伊勢は妻が死んだことを告げた。浴室に倒れている伊勢の妻を、晴美は見た。確かに死んでいた。晴美は弾みでナイフで伊勢の妻の胸に刺さったことを主張するが、伊勢自身はその現場を目撃してはいなかった。事件が明らかになれば、晴美自身が伊勢の妻を刺したのではないにせよ、大きなスキャンダルとなり何もかもが失われてしまうに違いない。兄の良介も失望するだろう、と伊勢に言われた晴美は泣き伏すことしかできなかった。だが、伊勢は妻のハンドバッグの中に伊東までの切符が入っていることを知ると、この事件の隠蔽を考えついた。伊勢の妻は、伊東に行っていることになっているから、彼女が晴美のマンションへ来たことを知っている人はいないはずであり、その死体は浴室にあるので血痕は洗い流すことができる。そして、熱海と伊東の間には自殺の名所“佛ヶ浦”がある。伊勢は、晴美を妻の代わりに伊東のホテルに行かせて、そして“佛ヶ浦”から投身自殺を偽装させることにより、この事件をなかったものにしようと考えついたのだ。刺痕がある死体は伊勢が隠すと言ったが、晴美はそんな恐ろしいことはできない、と答えた。だが、伊勢は兄の良介のことをも持ち出して、晴美を説得した。
　晴美は、伊勢の妻の姿で伊東駅に降り立ちホテルに入ると、すぐに“佛ヶ浦”へ向かった。そして、着ていたコートと帽子、ハンドバッグをその場に置いて、投身自殺を装った。それに成功した晴美は伊勢に連絡をするが、不安を追い払うことはできなかった。
　同じく伊東にあるホテルゑびなでは、沖良介の名位戦が行われていた。勝利の一手を決めた沖良介を祝福しようとした良介の恋人桃子は、庭に晴美がいることに気がついて声をかけると、彼女を連れて良介の元へ向かった。思いがけない妹の祝福に笑顔を返した良介は、明日には新居に行くからと晴美に言うが、晴美はそれを拒もうとした。その様子に、微妙なものを桃子は感じていた。

　夜通し釣ってメバル３匹という釣果で東京に戻ろうとした明智探偵事務所の面々だったが、“佛ヶ浦”を通り過ぎようとしたとき、文代がその場に置かれていた服とハンドバッグに気がつき、警察署に届け出を行った。警察署で事情聴取を受けていた明智は、偶然にもこの署の署長の将棋の先生をしているという沖良介と出会った。二人の顔は文字とおり瓜二つで、明智も良介も驚きを隠すことができなかった。「相手の出方を読んでこっちの出方を決める」という沖良介の戦術は、明智の探偵手法と同じであり、最後は逆手で決める、というところまで共通していた。

　自宅へ戻ってきた晴美を、伊勢が出迎えた。首尾よく行ったように見えたが、今日このマンションに兄の良介と桃子が来る、ということを聞いた伊勢は、真下を使ってそれを止めようとした。真下に電話を入れた伊勢は、妻が自殺した可能性がある、ということを伊東警察から連絡を受けていることを聞いた。夜には死体を始末する、と晴美に言った伊勢は、これで自分も犯罪の片棒をかついでしまった、とつぶやいた。
　ＢＡＲ桃子は、良介の恋人桃子の店であり、真下はそこの常連だった。店に訪れた良介に、真下は「一日中寝込んでいた」という晴美からの連絡を受けたと言うが、昨夜逢っているのにそんなはずはないと良介は答えた。いずれにしろ、今日はマンションには来ないで欲しいという晴美の言葉から、良介は痛飲してしまう。
　夜になって、晴美に手伝わせて、伊勢は妻の死体を車に乗せた。しかし、その際靴を片方ガレージに残していたことには気がついていなかった。さらに、気が逸る伊勢は、黄色信号で交差点に飛び込み、左側から走ってきたトラックと接触事故を起こしてしまう。運転手とは示談が成立したのだが、交差点側の派出所から出てきた警官に調書を取るために呼び出され、伊勢は車を後にした。
　交差点側のＢＡＲ桃子では、真下と良介が酒の上の口論をしていた。妹想いが過ぎた良介は、真下に手を出してしまい、突き飛ばされて頭を打ってしまう。だが、介抱しようとする桃子を押しのけて、良介は店を出て行った。泥酔し、頭を打った良介は、思わずそばに止めてあった車の後席に潜り込んでしまう。それは、伊勢の車だった。良介の様子を心配して後を追ってきた真下は、伊勢が車に乗り込んで去っていったのに気付くと、自分の車で伊勢の車を追いかけた。
　伊勢は、関連企業の所有する地所へ来て、車を止めた。その地所には、首なし沼と呼ばれる深い沼があった。毛布で縛った死体と石をロープで結び、そこに沈めようと伊勢が奮闘しているその時、良介が現れた。そこにあるのは伊東で自殺したという奥さんの死体じゃないのか、と言う良介に対して、晴美が殺したんだ、と伊勢は答えた。それを信じようとせず、晴美へ事情を聞きに行こうとした良介を、伊勢は刺し殺した。伊勢は、刺した拍子に折れた刃が残っている良介の死体を首なし沼に沈めた。妻の死体を沈めようとしたとき、伊勢は靴が片方ないことに気がつき、周囲を探してみたが、見つからなかった。やむを得ず、伊勢は妻の死体を首なし沼に沈めるのだった。
　全て事がなった、と思った伊勢は急いでその場を離れた。だから、真下がその様子を見つめているのに気がつかなかった。
　
　“佛ヶ浦”で、伊勢は妻が自殺したことについて、地元の警察から説明を受けていた。警察では自殺に疑念を持っていないようだったが、署長が沖良介行方不明の報を聞いて自ら調べていることを、伊勢は聞いた。
　一方、波越警部とこの件について話し合っていた明智は、自殺とするには疑問点がある、と言っていた。コートも帽子もハンドバッグもあった、しかし靴がない、と。また、死体が上がっていないこと、夫である伊勢が昨日完全に連絡を取れなかったことを、明智は指摘した。その点についてはこちらへ来てもらって事情を聞く予定だ、という波越警部の元に、部下が伊勢夫婦に関する調査報告を持ってきた。伊勢省吾は、財産家である伊勢家へ入り婿として入ってきており、しかも１０年前、伊勢が運転する車が横浜港に落ち、同乗していた義父伝兵衛がその時死んでいる、というのだ。
　波越警部に暇を告げた明智は、偶然伊勢と出会すが、その時伊勢が見せた驚きを、明智は見逃さなかった。

　不安に震える晴美は、兄良介のことを思い浮かべ、それに耐えようとしていた。だが、耐え切れず、良介のアパートへ足を運んだ。
　晴美のマンションで彼女を待っていた伊勢だったが、現れたのは真下だった。真下は、あの時の伊勢の様子を全て見ていたと言い、しかも無くなったはずの妻の靴を手にしていた。妻が死んでしまったのは正当防衛の結果であり、兄を困らせたくないからと言う晴美に泣いて頼まれ死体を隠しに行ったのだ、と伊勢は言うが、偶然車に乗り込んでいた兄の良介を伊勢が殺したのは確かだと、晴美の引き抜きの了承と、プロダクション設立の資金として、亡父が経営に失敗したマネキン工場を５０００万円で購入して欲しい、と真下は持ちかけた。伊勢はその条件を飲むが、代わりに晴美が起こした事件の尻ぬぐいを真下に手伝わせる事について、条件を飲ませた。
　良介のアパートで晴美を見つけた伊勢は、晴美を自分のものにしようとした。しかし、そこへ明智が訪れた。兄と瓜二つの容貌をしている明智に驚く晴美に対して、明智は伊勢の妻の自殺現場で遺留品を見つけたのは自分だ、ということからいろいろと事情を聞きに来た、と告げた。その件については自分も晴美も関係がない、と伊勢は明智の前に顔を出した。明智は、兄の良介と同じように、悩んでいるときは力になるから、と晴美に言うと、その場を後にした。
　再び伊勢は晴美を襲おうとするが、自分の身体に指一本でも触れたら警察へ何もかも話す、と言って晴美は伊勢を拒絶した。
　ＢＡＲ桃子では、真下が自分のプロダクションを立ち上げようとしていることを、桃子に自慢していた。そして、“社長との契約書”を彼女に預けた。

　明智探偵事務所では、伊勢の車が終日マンションに止められていたこと、またその場に靴が残されており、それは伊勢の妻のものであること、を文代がつきとめていた。また、伊東で調査を行ってきた小林は、ホテルに現れた伊勢の妻は変装していた誰かの可能性があることを報告してきた。それを受け、犯人は晴美のマンションで伊勢の妻を殺し、何者かが伊勢の妻として伊東へ行き自殺を装った、と明智は推理を固めつつあった。
　そんな時、晴美が明智探偵事務所を訪ねてきた。彼女は、何もかもを打ち明けに来たのだった。

　真下のマネキン工場で、伊勢と真下の取引は無事行われた。探偵の明智が探っていることに真下は危惧を抱いていたが、頭を使う事については他人には負けない、と伊勢はうそぶいた。

　明智探偵事務所では、晴美が今回の事件について語っていた。だが、その説明の中で、揉み合っているうちにナイフが刺さったのは肩口、死んでいたのを見たときは心臓にナイフが刺さっていた、という矛盾を明智は指摘した。心臓を一突きで即死だ、と言ったのは伊勢なのだ。また、隠蔽工作を思い立ったのが伊勢だったということを確かめると、今回の犯罪は晴美の為したものではなく、何者かの見えざる罠なのではないかと言って、明智は事件の解決を全て委せて欲しい、と晴美に言った。兄に似ている自分を信じて欲しい、と。

　真下は、晴美が行方不明になったことを伊勢に言い立てるが、伊勢は晴美が明智の元へいることを確信していた。
　明智もまた、伊勢が切れる男であることを見切っていた。そして、死体が見つかれば真相が明らかになるのならば、その死体をどこに隠したか、が鍵となるに違いないと考えていた。
　明智は伊勢を訪ねると、伊勢の妻の靴を彼に見せた。見つかったのは晴美のマンションだった、という明智に対して、妻はそこへ行ったことがなく、同じサイズの女性は日本に何万人もいる、とその靴が妻のものであることを否定した。しかし、明智は伊勢が妻を殺したに違いない、と伊勢に告げた。死体が見つかれば何もかも明らかになる、という明智に対して、伊勢は明智が死体を見つけるのを楽しみにしている、と答えた。
　伊勢に対して、明智探偵事務所による尾行が行われた。チームプレイを駆使した尾行により、伊勢が向かったのは首なし沼であることがわかった。そこで、伊勢が沼に対して大きな石を次々と投げ込むのを、文代と小林は目撃した。晴美のマンションとＢＡＲ桃子、そして首なし沼は直線上に位置していることから、伊勢が死体を首なし沼に沈めたに違いないとして、文代と小林は明智に決定的な証拠を見せた。それは、沼に浮かんでいたという靴で、明智の手元にある靴の片割れと対になるものだった。

　伊勢は、明智が本物の妻の靴を見せたことにより、真下に騙されたことを知った。「騙した奴には騙し返すのが私の主義だ」と伊勢は、真下に酒に睡眠薬を混ぜて飲ませ車ごと海に落とそうとした。だが、真下はＢＡＲ桃子のマダムに“契約書”を預けているからおれは殺せない、と口走った。しかし、伊勢は桃子から、“契約書”を奪い、殺してしまう。
　翌日、港に沈んでいる真下の車が発見された。会社の金を使い込んだのを苦にしての自殺でしょう、という伊勢に対して、明智は伊勢の犯した犯罪の証拠が見つかりそうだ、と告げた。首なし沼から見つかった妻の靴を見せられた伊勢は苦しい言い訳をするが、波越警部にも信じてもらうことはできず、捜査令状に基づいて沼の捜索が行われた。
　だが、死体は見つからず、見つかったのは刃が折れたナイフの柄一本だった。明智を痛罵する伊勢。だが、明智は負けたとは思っていなかった。尾行されているのを計算して、わざと靴を見つけさせ、死体がこの沼にあると思わせる伊勢の作戦だった、というのだ。それを見抜いていた明智は、沖６段に教わった言葉をつぶやいた。「相手の出方を見て、自分の出方を決める」と。
　明智との頭脳戦に勝利したことを確信した伊勢は、一人祝杯を挙げていた。そんな時、電話が鳴った。電話からは真下の声がした。「あんたと私しか知らない例の場所で、取引がしたい」という言葉に、伊勢は同意せざるをえなかった。真下のマネキン工場に向かった伊勢は、そこで真下に逢うのだが――。
 

　果たして、死体はどこに隠されたのか!?
　明智と伊勢、頭脳の戦いの真の勝者はどちらなのか!?
　マネキン工場では、驚愕の真相が伊勢を待っていた!!
　

感想：

　やはり、最初に特筆すべきは、今回の主役とも言うべき伊勢省吾だろう。
　当初は事件に巻き込まれただけの人間であるかのように現れるが、徐々に彼が事件の主導権を握っていく展開は、観る者を飽きさせない。特に晴美と真下に対する二枚舌の使い方は、注目に値する。確かに最初は突発的な事件だったにせよ、それを利用して完全犯罪を成就させようとする伊勢の姿は、まさしくピカレスク・ヒーローと呼ぶに相応しいものだろう。
　また、本シリーズ初めて、明智に対する“盤面の敵”と呼ぶに値するのが、この伊勢という男だ。《美女》シリーズにおいて、明智の好敵手と目される登場人物は、これまでにも何人か登場している。代表的なのは、やはり“黄金仮面”と“黒蜥蜴”であろうか。だが、“黄金仮面”にしても“黒蜥蜴”にしても、明智と知恵の勝負をしたことはなかった。この両者と明智との対決は、そのほとんどが心理的、あるいは行動的なものであった。両者を追い詰めるために明智が行ったのは、変装による接近で、これにより明智は両者を捕まえようとしている。
　ところが本作では、明智と伊勢との頭脳での勝負が中心となっている。具体的には、伊勢が隠した死体を明智がどうやって見つけ出すか、ということであり、死体が見つかれば真相が明らかになる、という作品構成に見事に即している。そして、この勝負における伊勢の策略は、なかなか見事なものであると言っていいだろう。
　また、明智に対して恐れを抱くことなく勝負を仕掛けていく伊勢の敵っぷりも素晴らしい。他の明智の好敵手が、勝利を確信しつつも、明智に対して一抹の恐れを抱き続けていたのに対し、伊勢はあくまでも明智を見下そうとしているのだ。世間広しと言えども、明智をあれだけ面罵したのは伊勢だけなのである。また、明智探偵事務所の尾行を逆用したのも伊勢だけである。決して下手な尾行ではなかったが、尾行があるものとして行動し、それを以て自分の無実を証明しようとする伊勢の能力は、明智をして「切れる男だ」とつぶやかせるのだ。
　全くもって、見事な“盤面の敵”であり、これだけの敵を相手にするのだからつまらないわけがない。
　これに真下の企みや晴美の心情が絡み合うことにより、明智対伊勢という一本調子では物語が進まないわけだから、本当に観る者を飽きさせないのだ。

　また、本作では天知茂が二役として登場しているのも興味深く観ることができるだろう。どちらかといえば、ニヒルでクール系というキャラ立ちをしている天知茂が、本作では妹想いで人情家、涙もろくて伝法口調という沖良介にも扮することができるというのは、ファンにとってはたまらない見どころに違いない。
　この二役の演じ分けは全く見事なものであって、天知茂の後の明智役がどうしても板につかないのは、やはり演技力が天知茂に及ばないから、ということなのではないだろうか。
　そして、この二役を活かしたクライマックスは、まさしく本作を締めるに相応しいものである。

　完璧なものはない、という点からすれば、波越警部の出番と役所が少ないとか、《美女》シリーズ名物の裸体女性の出番が少ないとか、そういうことは言えるだろう。伊勢のトリックが『刑事コロンボ』のある作品の翻案ではないかという指摘も聞いたことがあるし（手前的には、『まんが忍者・手品のひみつ（学研）』のコラムにあった“大塔宮は忍者だった！”を思い出すのだけど(^^;）、もっと言えば十字路で伊勢が事故を起こす展開そのものが不要だったとも言えるかもしれない。

　やっぱり、それでも、本作は面白いのである。天知茂がニヒルでクールな役しかできない、という思い込みを覆すことができるということだけでも、一見の価値はあるだろう。

見どころ：

前の海には人間はいない。しかし後ろの平和な夜景の中には、人間がいる。人間がいる以上、犯罪がひしめき合っているはずだ。夜の闇の中にも犯罪者は目を鋭くして獲物を狙い、罠にはめられた可哀想な獲物もいる。この美しい夜景も、僕には犯罪の縮図のように思えるね

　ちょっとしたスター気取りだが、大した奴じゃないよ

　奴の知恵じゃ、死体の場所を嗅ぎつけるのは無理だ

　推測だけでものをおっしゃる

　推測？　なんでも推測だ

　名探偵とは名ばかり。我慢できないほど傲慢で、呆れ返るばかりに無知で、鼻持ちならない気取り屋