大雨の中、ロング・アイランドの外れへ向かったエラリイは、彼の一人息子ジョナサンの誕生日のための芝居“不思議の国のアリス”の稽古をしているリチャード・オーエンのもとを訪れた。一月ほど前に屋敷を手に入れたオーエンは、エラリイにしつこく来宅をせがんでいたのだ。
エラリイが屋敷に泊まった次の日、リチャード・オーエンはいずこかへと失踪してしまった。ジョナサンの誕生日当日であり、仕事に出かける用があったわけでもない。警察へ連絡を取ろうとするオーエンの義母を押しとどめ、しばらく様子を見るべきだと指摘するエラリイ。だが、その日の夕食後、屋敷にいた人々は全員一服盛られたために倒れてしまう。そして、その後、何者かが屋敷にあった品物をプレゼントとして送りつけてくる、という怪事が！
果たして、何者がそのようなことをしているのだろうか？ そして、消えたオーエンはどこへ行ってしまったのか？ エラリイは、その手がかりは昨夜書斎にあるべきものが見えなかったことにある、と断言するのだが……!?
「力が欲しいか!? 力が欲しければ、くれてやる!!」な『ＡＲＭＳ』のモチーフである『不思議の国のアリス』、『鏡の国のアリス』を下敷きにした作品。本作にも“ねむりねずみ（ヤマネ）”や“三月兎”が登場するが、魔弾タスラムを打っ放したり、バロールの魔眼を使ったりはしない。ましてや、タイトルにある“いかれ帽子屋”が、お茶会の余興でブリューナクの槍を撃ちまくったりもしない＜当たり前
基本的なボケはさておいて、大雨で出かけるのもままならない屋敷の中から一人の人間が忽然と消えてしまった謎に挑む、という展開はなかなか面白かったりする。オーエンの行方を突き止める手がかりをエラリイがすぐさま突き止めるというところはなかなか爽快なのだが、本格推理ものとして見ると、後半の展開は少しアンフェアなような気がする。オーエン失踪に関する真犯人を突き止めるためとはいえ、よもやエラリイがそんなことをするとは……というところだろうか。確かに、物的証拠のない状態で犯人を追い詰めるために、エラリイが心理劇を仕掛けるというのは他の作品でもあるにしても、この展開はちょっとなあ、という感じか。
最高裁判所刑事第四部法廷では、第一級殺人罪に関する裁判が開かれようとしていた。被害者シルベスター・ゴールを殺したとされている被告人ウィル・キーラーの有罪はもはや動かぬものと考えられていたが、弁護士のショウだけは一縷の望みを陪審席にかけていた。陪審席にはエラリイ・クイーンとニッキー・ポーターが座っていたのだ。
裁判は進んだが、ゴールの悪行とキーラーの不利な点だけが浮き彫りにされていくだけであり、被告人に有利な証拠は挙がってこないように思われた。エラリイを焚き付けるニッキーだが、エラリイは動こうとはしなかった。しかし、証人として裁判の場に立ったプラウティ医師の発言に、エラリイは目を光らせた！ 果たして、キーラーは有罪なのか、無罪なのか？
クイーン自身によると思われるラジオドラマの脚本である。ちゃんと“読者への挑戦”があり、パズルとしてきちんとした作りになっている。
本作は、陪審席に座っているクイーンということで、ちょっと珍しいシチュエーションが目を引いている。『途中の家』や『災厄の町』で証人台に立つエラリイというのは既出だが、本作では陪審という立場で事件に関わることになるわけである。アメリカの裁判の陪審員制度を垣間見ることもでき、事件そのものはそれほど難しいものではないが、興味深い作品に仕上がっている。
メイドン・レーンにある事務所に、宝石商のケニヤンを訪ねてきたラザルス教授と名乗る男は、ダイヤモンドを２倍にする方法を生み出した、と真顔で語っていた。一笑に付そうとしたケニヤンだが、ラザルス教授がその方法を実演する、と語ったことで考えを改めた。仲間の宝石商を誘い、四個のダイヤモンドを２倍にして欲しい、とケニヤンはラザルス教授に申し出た。ただし、実権はケニヤンの事務所にある大金庫の中で行い、実験中そこから一歩でも外に出る場合には刑事と医師の身体検査を受けなければならない、という条件を与えて。
実験は開始され、期限の一週間を過ぎたところで、ラザルス教授は実験期間の延長を申し出た。その延長を受け入れた後、ケニヤンが不安を感じ事務所へ戻り金庫の中を改めた時……四つのダイヤモンドは影も形もなかった！
厳重な警戒の中から、どうやってラザルス教授はダイヤモンドを盗むことができたのだろうか？ 事件について相談を受けていたクイーン警視とエラリイがその謎に苦しんでいたとき、新たな事件が発生した。東二十四丁目にあるホテルの一室で、ラザルス教授が殺されていたのが発見されたのだ。
誰がラザルス教授を殺したのか？ そして、ダイヤモンドはどうやって盗まれたのか？ エラリイが突き止めた解答とは!?
これもラジオドラマの脚本。もちろん、“読者への挑戦”付き。
不可能犯罪に論理をもって立ち向かうエラリイの描写がなかなかよい感じである。小品としても切れがありまとまっていて、なかなかの作品であるように思う。