中継ステーション

`中継ステーション`

Way Station
訳：船戸牧子
早川書房、ＳＦ文庫(1979/7/15三刷）

`STORY：`

　ナショナル・アカデミーのDr.アーウィン・ハードウィックは、ＣＩＡの調査員クロード・ルイスの突然の訪問を受けて困惑していた。ルイスがハードウィックの元へ足を運んだのは、ウィスコンシン州ミルヴィル近郊の農場に住んでいるイノック・ウォーレスという男を調査した結果、あまりにも不可解なことが判明してきたからだった。
　年齢が１２４歳という高齢であるにも関わらず、その外見はどうみても３０代前半のイノックについて、ここ２年ほどルイスは調べていたのだが、調べれば調べるほど、イノックに対する謎が増えていたのだった。農業をやっているわけでもないのに生活が成り立っていることや、本当に困ったときのためのダイヤやルビーやエメラルドが一緒くたに取れる鉱山？を有していること、どういうわけかインクをパイント単位で、大きな記録ノートをダース単位で買い込んでいること、ニューヨークタイムズや、ウォールストリート・ジャーナルなどの多数の新聞にいくつもの科学雑誌を長年買い込んでいること、そしてウォーレス邸を調べてみると住居として使われているかのようなダミーの小屋が存在していて、実際の家屋の中には入ることができないこと、その家屋は未知の滑らかな物質でコーティングされていること等々。
　そして、ウォーレス家の墓所には未知の銘が刻まれた墓石があり、その下から発掘されたのはどうみても人類のものとは思えない死骸だった。

　ＣＩＡの監視対象となっているそのイノック・ウォーレスは、銀河系の旅行者のための中継ステーションでスバン第６惑星人の受け入れ態勢を整えていた。そう、ウォーレス邸は、実は旅行者が銀河系を移動する際に使用するための中継ステーションだったのだ。
　それは、およそ１００年前、イノックが“ユリシーズ”と名付けた異星人の訪問を受けた日が始まりだった。ユリシーズは地球に中継ステーションを造るための場所を探しており、その場所としてウォーレス邸を、そして中継ステーションの管理人としてイノックに白羽の矢を立てたのだ。以来、イノックは日々郵便物の他に生活に必要な物資を配達してくれる郵便配達人のウィンスロウ以外の人間と接触をせず、中継ステーションの管理業務に勤しんでいた。中継ステーション内にいる限り老化は進行せず、結果としてイノックは１００歳以上の寿命を得ていたのだが、最近ではそのことに不信を抱く人々が増えつつあるのが悩みの種だった。

　日課である郵便の受け取りにいく途中、イノックは聾唖の隣人、ルーシー・フィッシャーが泉の辺にいるのを目にした。イノックは自分がその時目にしたものを気のせいだと思った。しかし、彼女の手に止まっていた傷ついていた蝶の羽根が元に戻っていったのは、間違いのないことだった。
　配達手のウィンスロウといつものように落ち合い、郵便物と彼にプレゼントした木材で彫ってもらった彫刻を手にしたイノックがステーションに戻ると、ユリシーズの来訪について連絡が来ていた。そして、スバン第６惑星人がステーションに到着した。イノックは、統計学について優れたスバン第６惑星人にその話を聞きたかったのだが、スバン第６惑星人は能力が足りないとして、イノックの願いを退けた。
　イノックが気にかけていたのは、最近の世界情勢だった。刻一刻と状況が悪化していき今にも世界的な戦争が起こりそうな状況だったのだ。そして、イノックが異星人ミザールの数学に基づいた統計を駆使して得られたのは、地球は核兵器を用いた最終戦争へとまっしぐらに突き進んでいるという結果だった。
　イノックは彼が作り出した仮想人格のデイヴィッドとメアリとに、彼が今抱えている難問について話をした。地球が核戦争によって滅んだとしても、中継ステーションはその影響を受けない。だから、イノックは扉を閉めて外へ出歩くのを止めてしまえばいいのだが、それをした場合、イノックは地球に背を向けることになってしまう。この問題を解決することはできず、しかもデイヴィッドとメアリとは彼の元から去ってしまった。
　落ち込んだイノックだったが、友情を感じている霞人間（ヴェガ星人）がステーションを訪れることを知って、喜んだ。以前霞人間は何度かこのステーションを訪れており、その人々とイノックは親交を深めてきた。ある時は霞人間の一人がこの地で亡くなり、友誼を以て彼の葬儀を執り行ったこともあるのだ。
　いろいろと考えることが多かったイノックは、ステーションを出て外の風景を眺めていたが、そこに背中を鞭打たれたルーシーが駆け込んで来た。イノックは思わず彼女をステーション内に保護してしまい、彼の父親や兄との間に揉め事が起こった。そして、ルーシーは、どういうわけか今まで使い途がわからなかった異星人の道具を起動することができた。

　前触れどおり、ステーションにユリシーズが現れたが、今回の彼の来訪の目的は友好的なものではなかった。霞人間の遺体が墓所から持ち去られたことにより、地球は安寧な地ではないとして中継ステーションの撤去を求める行動が生じている、とユリシーズは語った。今度の霞人間の来訪も、地球を代表するイノックに対して抗議のために来るのだった。そして、中継ステーションが閉鎖された場合、イノックの身の振り方には二つの選択肢しかなかった。地球に残るか、地球を離れ銀河中央本部とともに行動するか。
　霞人間の訪問を受けたイノックは、墓所を確かめた。間違いなく霞人間の遺骸が持ち去られていた。墓碑を目にした霞人間は何らかの感銘を受けていたが、イノックにとってはそれどころではなかった。イノックは自分を秘かに監視していたつもりのＣＩＡ職員クロード・ルイスを難詰し、遺骸を元の場所へ戻すことを約束させた。
　ステーションに残っていたユリシーズは、しかし遺骸が墓所に戻ったからといって全ての問題が解決するかどうかはわからないことをイノックに告げた。今の銀河中央本部では種族間の諍いが表に現れてきており、それはおそらく“魔法装置”と呼ばざるを得ない神秘の装置が失われてしまったことによるらしい。“魔法装置”とその使用者が各惑星を訪れ、銀河にあまねく偏在する精神存在を人々に感じさせることにより、銀河の調和を保ってきたのだが、今はその“魔法装置”の行方がわからなくなっているのだった。
　イノックは、ユリシーズに対して、地球においても核戦争が起こりそうな状況であることを話した。ユリシーズは、イノックが望むならば、地球における最終的戦争を封じることができる、と告げた。それは、地球人の知性を一定以下に引き下げることにより、武器の使い方を忘れさせてしまうというものだった。
　次の日、ルイスはイノックに対して遺骸が墓所に戻されることを確約した。ルイスに対して、イノックは場合によれば大量の書類や資材を運ぶためのトラックと国家の要職にある人物と話をする機会が必要になるか、あるいはこれまでのことを忘れるか、と言った。
　ルイスと話を終えたイノックの元にウィンスロウがやってきて、フィッシャー家に焚き付けられて、これまでイノックのことを訝しく思っていた人々が彼の家に押しかけようとしていることを話した。ユリシーズがステーションにいる今、暴徒に押しかけられては、霞人間の遺骸が墓所に戻されたとしても、地球は中継ステーションを置くのに相応しい場所ではないことが報告されてしまうだろう。

　中継ステーションの行く末は!?
　イノックは地球と銀河、どちらで生きることを選択するのか!?
　そして、銀河と地球とを襲う混乱は、果たして解決されるのか!?

`感想：`

　シマックの作品の中では『都市』に並ぶ有名な作品（ヒューゴー賞受賞作品でもある）である本作は、やはり面白い。面白いといってもいろいろな意味合いがあるわけだが、ここでは（以前にも語ったことではあるが）シマックの先見性といったところに注目したい。
　なにが先見的であるかというと、やはりＣＩＡにおける国内工作が本作の端緒となっていることだろうか。今でこそ宇宙人問題はＣＩＡの陰謀ということが定説になっているが、本作発表当時ではＣＩＡがスパイの元締めという認識はあったにしても、宇宙人問題にまで手を出す団体とは認識されていなかっただろう。 1947年に起こったロズウェル事件では陰謀の当事者は軍とされていたし、1953年にＣＩＡがロバートソン査問会というUFO関連の委員会を開いたにしても、その後のコンドン委員会やらなにやらはアメリカ空軍が主導している。その陰でＣＩＡが暗躍していたということが有名になるのは、1978年にＣＩＡに対して情報開示裁判を行い、その結果が明らかになったからであろう。その辺の話を受けて、政府が宇宙人に関わる情報を隠している！ということがサブカルチャー的にはスタンダードとなって、かの有名な『X-File』が作成されることになる。
　本作の発表は1963年であって、この当時だとUFO関連は空軍の専権事項のような扱いで（そもそも『UFO』という単語が空軍大尉ルッペルト発案と言われるくらいである）、プロジェクト・グラッジやらプロジェクト・ブルーブックだのを立ち上げていたのも空軍だから、本作の冒頭の会話が軍関係者でも成り立ちそうなものである。そこにＣＩＡの工作員を持ってくるところが、シマックの非凡なところであろう。ここら辺の先見性はもう少し注目されてしかるべきという気がする。

　作品本来の話もしなければなるまい。
　シマックが生涯テーマとして追い続けた“人間性”に関わる話が、本作の根幹を成している。すなわち、中継ステーションの管理人イノック・ウォーレスは、果たして地球人なのか、それとも宇宙人なのか、という話である。元々はアメリカの片田舎で農夫として一生を過ごすはずだったイノック・ウォーレスだったが、何の因果か中継ステーションの管理人、というわけで、イノックは地球と銀河との狭間に立つ男として苦悩することになる。優れた科学技術について知りながらそれを世界に開示する手段がないこと、核戦争が近づいていることを知りながらそれも世界に開示する手段がないこと、そして銀河中央本部による核戦争を停止する手段について実行の是非を判断しなければならないこと、と一人の人間の上に選択は否応なく迫られる。それもこれも、ひとえにイノックが地球人であるか宇宙人であるかを迫られるというものなのだ。
　地球人であれば、手に入れた銀河世界の科学技術を地球へ開示してしまえばいい。
　宇宙人であれば、地球に背を向けて銀河中央本部での仕事に就けばいい。
　地球と宇宙の狭間に立つからこそ、イノックは上記二つのいずれも選ぶことができない。最終的には、イノックは選択をするわけだが、そこまでのイノックの心の動きにこそ、人間性というものが明確に現れており、これを追求することこそがシマックの終生のテーマであったのだろう。
　そういう点からすると、本作がシマックの代表作であると呼ばれることは実に正しいことであるように思う。そして、代表作であるからということだけではなく、シマックの作風を理解するためには本作は読まれなければならない作品である。

`特記事項：`

イノック・ウォーレス

　1840年4月22日生まれで、作中年齢は124歳。
　ウィスコンシン州ミルヴィルの郊外にある農場の所有者ジュディアとアマンダの一人息子。
　南北戦争の志願兵で鋼鉄旅団に所属していたが、1863年のゲティスバーグの戦い前に部隊を異動しており、グラント将軍配下でヴァージニアまで攻め込んだ（終戦時はアポマトックスにいた）。
　小学校を卒業後、ミルヴィルにある１年制か２年制の中学校に一冬通っていた

イノック・ウォーレスの両親

　アマンダ・ウォーレスは1821年に生まれ1863年に亡くなった
　ジュディア・ウォーレスは1816年に生まれ1866年に亡くなった　

No.18327

　地球にある中継ステーションの識別番号

スバン人

　小球状をしており液体中に棲息する異星人。
　数学については銀河一優れているといわれているが、それはポラリス第7惑星で用いられている記数法体系を知っていなければ理解できないらしい

古い暖炉

　ウォーレス邸が銀河中央本部に徴発され、中継ステーションに改装された際に、イノックが取り除くのを許さなかった唯一のもの。瓦と天然石で造られており、マントルピースの上には異星人からもらったいくつもの工芸品（らしきもの）が飾られている

アンドロメダ人のやったこと

　アンドロメダ星雲のある惑星人は、惑星開発を行う代りにその惑星に適合するように自分たちの身体を開発した。精神もそれに合わせて開発し、その結果、その惑星に適合する姿が芋虫なら芋虫の姿に自分たちの身体を変換し、精神もそれに合わせることになった。
　この辺の話は、『人狼原理』に出た話でもある

マンカリーネン第３惑星の精神管理法

　精神管理に長けたマンカリーネン第３惑星人が開発した精神管理法は、地球人に適用すれば精神病院を一遍に廃院にできるほどの改善が見込めるらしい

アルファード第２２惑星の奇術師たちが行う名もない科学

　黒魔術のようにも見える、宇宙のある自然現象をある規則に基づいて操作するもので、これにより想像上の人物を実体化させることができる。
　イノックはこれを利用して、自分の友人を作り上げた

ディヴィッド・ランサム

　イノックが作り上げた友人の一人。
　かくあるべしと想像していた自分自身で、颯爽たる北軍士官で魅力的な性格を有している

メアリ

　イノックが作り上げた友人の一人。
　モデルとなったのは、かつて彼の許婚であったが病死してしまったサリー・ブラウンと、ヴァージニアの大農園で一度だけ目にした少女。
　幻想の存在であるにも関わらず、イノックは彼女を愛してしまう

1915年7月12日午後3時20分

　地球の中継ステーションに、初めてヴェガ第２１惑星人（通称、霞人間）が到着したとき

ヴェガ第２１惑星人

　身体中を輝く霞に覆われているヒューマノイド型の異星人で、銀河中央本部においても重要な地位を占めている。
　ヴェガ惑星人が死んだときは、死んだ惑星に留まり、死体はその惑星の習慣に従って処理されることになっている。また、どういう理屈かはわからないが、ヴェガ惑星人は、亡骸が移動されたことを知ることができる

戻る

HOME