その調査を終えた大晦日の日に、今度はスティーブ・マッケイがエラリイの元へ現れた。そして、今回の事件の犯人を知っているので、手を引いて欲しい、とエラリイに持ちかけた。だが、エラリイもまた事件の真相を確信しており、ウェーバーの依頼を遂行することをマッケイに告げた。そんなエラリイに対して、翌日の元日にロビンソン宅でパーティを催すこと、その席で今回の事件の調査が無駄だったことがわかる、と言ってマッケイはエラリイをパーティに招待した。
１月１日の午後、ロビンソン宅で行われたパーティには微妙に張りつめた空気が漂っていた。かなり酒を呑んでいたが、マッケイはホストとしてその場を仕切っており、自分でカクテルを作り出すと、その場にいた人々に１２星座のマークが記されたグラスを渡していった。グラスが全員に行き渡ったところで、マッケイはデイヴ・ロビンソンがウェーバー＆マッケイ社の共同経営者になることを発表した。マッケイが次の発表をしようとしたとき、電話が入ってエラリイが中座した。マッケイは預かっていたグラスをエラリイに返すと、ロビンソンの次女シーラと自分が結婚することを高らかに告げ、乾杯の後グラスを暖炉へ投げ込んでくれ、と一堂に促した。
これが事件の調査をしても無駄だということだ、とエラリイに話していたその途中、マッケイは死んでしまった。
ヴェリー部長刑事が暖炉から割れたグラスを拾い出してなんとか殺人の証拠を集めようとしているのを後にして、エラリイはこの日ずっとマッケイと行動を共にしていたコンラッド・ロングの証言に従って、マッケイの足取りを調べ出した。マッケイがまず足を運んだのは共同経営者のウェーバーの家であり、彼はそこでカクテルを呑んでいた。また、共同経営者であるウェーバーとマッケイは互いに生命保険を掛け合っていたことが明らかになった。
次にマッケイが訪れたのはテンプル博士という男のところだった。テンプルはシーラと婚約関係にあったので、マッケイは彼からシーラを横取りしたことになる。ここでもマッケイはカクテルを呑んでいた。
ロビンソン宅へ戻ったエラリイは、デイヴが自殺を図り、辛うじて命を取り留めたことを知った。そして、シーラから、マッケイと結婚をすることになった経緯をエラリイは聞き出した。エラリイが調査した結果から推察したとおり、マッケイは奸計を図って２５０００ドルをデイヴが横領したように見せかけ、それをネタにシーラとの結婚を強要していたのだった。
マッケイは立ち寄った全ての場所でカクテルを呑んでいたのだが、それらの場所のグラスは洗われたり、砕かれて他の破片と混じってしまったり、あるいは暖炉の中で燃やされてしまったり、と証拠として使用することができそうになかった。しかも、カクテルを呑んだ場所にいた全員がマッケイを殺害する動機を有していたのだ。
さしものエラリイも、これ以上は事件を解決する手がかりが得られないかと考えた。
だが、暖炉の中を調べていたヴェリー部長刑事の報告を聞いたエラリイの目が輝き始めた。奇跡的にも、二つの大きめの破片から拇指紋を検出することができたのだ。そのうち一つは天秤座の装飾が入ったグラスで、これはエラリイがマッケイに持たされたグラスのものだった。
だが、エラリイが持ったはずもない蠍座のグラスからも、エラリイの拇指紋が検出されたというのだ。
それを聞いたエラリイは、この事件を解決したのはヴェリー部長刑事だ、と叫んだのだが……!?
また、本作では推理だけでなく調査についても非凡なところを見せるエラリイの描写があるのもファンには嬉しいところだ。なにしろ、マッケイ＆ウェーバー社内を少し調べて、外回りを２、３個所しただけで、エラリイは事件の全貌を推察してしまうのだ。事件を解決するための確実な証拠は後日手に入る、というところまであっさり漕ぎ着けてしまうエラリイを見ていると、やはり名探偵には推理能力だけでなく、調査能力も必要なのではないか、と思うところがある。実際自分で調査できなかった『三角形の第四辺』では、エラリイは壮絶なボケをかましてしまったわけだし。
それにしても、繰り返しになるが、本作はラジオドラマという体裁であるにも関わらず、クイーンらしいフェアプレイの精神に溢れた小品である。本作が掲載された『エラリー・クイーン パーフェクトガイド』に拠れば、現在クイーンのラジオドラマ集の翻訳が企画中だという。このレベルの短編がまだ読めるのかと思うと、ワクワクしてしまう。
あいつは古くさい小説をしこたま読んでおったに違いない(P.384)
オークション開催直前、ケンドールが現れた。何があってもこの盃は取り返す、と主張するケンドールを締め出し、オークションが始まった。白熱したオークションだったが、６５０００ドルを提示した醸造業者のジェイコブ・グロスがチェリーニの盃を購入することが決まった。だが、終了直後、有名なコレクターである日本人オーヌ・オオクラが会場に現れ、７５０００ドルを支払うという条件でグロスから盃を購入しようとしたが、グロスはそれに応じなかった。
その夜、エラリイはバートから電話を受けた。盃の手入れをしようとしていたバートは、急に屋敷の電灯が消えてしまったことに不安を抱いたのだ。エラリイは即座にパーカー宅へ向かった。暗闇の中、どうにかバートの作業室へ辿り着いたエラリイだったが、その直後、何者かが部屋へ侵入し、盃を奪って逃走した。
覆面で顔を隠すだけでは足らずに、暗闇を必要とした犯人は、バートや自分が知っている人物に違いない、と推理したエラリイは、クイーン警視とヴェリー部長刑事を呼び、ドアノブの指紋を取ってもらうことにした。
盃をだまし取られたと逆恨みを抱いていたケンドール、盃を手に入れ損ねたオオクラ、どちらも怪しいが、しかし自身コレクターでもあるグロスが美術館に納入するという約束を果たすことなく、しかも金を払わずに盃を手に入れる可能性も考えられた。また、金に困っているパーカーが、盃が盗難されたことで保険金を手に入れ、秘かにコレクターに転売するということも考えられなくはない。
だが、ドアノブから検出された指紋は、外側のノブにはエラリイの指紋しかなく、内側のノブにはエラリイとバートの指紋しか残されていなかった。
果たして、幻の銘品チェリーニの盃を盗んだのは、いったい誰なのか？
また、確たる動機もないのに容疑者に簡単に日本人を入れているってのも、日本の読者としてはアレだよな〜、である。とても欲しがっていたし、日本人だから容疑者に入れてやれ、ってのは作品の発表時節を考えればわからないでもないのだが、やっぱりなんだかな〜という感じである。
小説としても、『サソリの拇指紋の冒険』に比べると描写が薄く、読み応えがない。特に“解決篇”の卜書きみたいな描写はいったいどういうことなのか。『サソリの拇指紋の冒険』がきれいにヴェリー部長刑事の言葉で落ちているのに比べるまでもなく、空虚感がいっぱいである。この作品と、『サソリの拇指紋の冒険』は、クイーンの脚本に誰かが手を入れて小説化したものであるらしいが、その誰かが『サソリの拇指紋の冒険』の書き手であったならば、もう少し読める作品に仕上がっていたのではないだろうか。