『五重塔の美女 江戸川乱歩の「幽鬼の塔」』

初放映日:1981/1/10
放映枠:120分


CAST
明智小五郎
天知 茂
文代
五十嵐めぐみ
小林少年
柏原 貴
波越警部
荒井 注

片平なぎさ
生田悦子

石浜 朗
勝部演之
森次晃嗣
草薙幸二郎
南條 豊

岡部正純/黒沢拓也
桜川梅八

宮井えりな
今福将雄

小田草之助/沖 秀一
羽生昭彦/村上記代
本多みちこ/加藤真琴
林 享/田木聖一
花野郁子/山口ひろみ
豊原 健/佐藤秀美
北村昌幸/斉藤朝樹
上村正仁/竹内久和
菊地順一

入川保則

 

STUFF

プロデューサー
宇都宮恭三(テレビ朝日)
佐々木孟
原作
江戸川乱歩
脚本
櫻井康裕
音楽
鏑木 創
撮影
小杉正雄
美術
猪俣邦弘
録音
鈴木正男
照明
石渡健蔵
編集
松浦和也
記録
宮下こずえ
助監督
増田 彬
装置
谷津勝利
装飾
磯崎 昇
結髪
三岡洋一
美粧
加藤由紀子
衣裳
松竹衣裳
調音
松竹映像録音スタジオ
現像
東洋現像所
進行
水島誉志治
プロデューサー補
中山滋弘
製作主任
大川 修
協力
MAZDA
ファッションクリエーター新紳
監督
井上梅次
製作
テレビ朝日
松竹株式会社

映像特典
90秒予告/30秒予告/15秒予告/ハイライト


STORY:

 この不思議な事件は、心霊術に興味を持った文代の拾い物から始まった……

 探偵という職業にはインスピレーションも大切、ということから、文代は方々の霊媒を訪ねて回っていた。そんなある霊媒の元に、かつて亡くした恋人の霊を求めてきた、という中年の男がいた。祈祷が進み、霊媒は護摩壇の火の中に失ったものが見える、と男に声をかけた。男は、燃え盛る火に何を見たのか、突然「許してくれ、私が悪かった! 罪の償いはいくらでもするから!!」と叫ぶと、その場から逃げ出そうとした。その時、男が手にしていた鞄からいくつかの札束とロープ、そして滑車がこぼれ落ちた。男は慌てながらもそれを拾うと、夜の闇の中へ逃げていった。
 だが、その場に一つだけ、男が拾い忘れたものがあった。それは、干からびた人間の小指だった――。

 文代は男を追いかけた。男を乗せたタクシーは、浦沢森林公園へ辿り着いた。公園の中で札束に火を点け、男は哄笑した。男は火を点けた札束を照明の代わりにしながら、公園の奥へ奥へと進んでいく。文代も後を追った。だがその途中で靴の踵が取れてしまい、文代は男を見失ってしまう。だが、公園の奥へ進んでいく別の男の後ろ姿を文代は目撃した。また、文代は別の男ともぶつかってしまう。それは文代が知っている作家・青木だった。さらに別の男が公園の奥へ進んでいくのを、文代は目にした。
 公園の中を探して歩いていた文代は、あの男が持っていた滑車とロープで首を吊っているのを発見した。その場から逃げ去っていった格子柄のワンピースを着た女の後ろ姿をも。そして、また別の男がその場に現れた。男は、首を吊っている男を知っているかのようだった。警察を呼んでくるから、と言う文代に対して、自分が警察を呼んで来ると言って、男はその場から逃げ去っていった。
 警察が駆け付け、現場検証を行い始めた。明智小五郎もまた、姿を見せていた。波越警部は、男の指を改めたが、男の五指は揃っていた。また、男は身元を証明するようなものを何も所持していなかった。波越警部は自殺と考えるが、明智は逃げ去ったワンピースの女、また現場近くを歩いていた3人の男のことを指摘した。警察に通報したのは画家の三田村という男ということだった。そんな有名な作家と画家がこの自殺に関係しているかを波越警部は疑問視したが、周辺に男が手にしていた鞄がなかった。また、男の死体を探っていた明智は、彼が所持していた曰くありげな五重塔の写真を見つけ出した。小指のミイラのことも合わせて、明智はこの事件が自殺ではなく、他殺であると考えた。周囲を調べていた小林少年は、女の身分証明書を見つけ出した。
 
 身分証明書の持ち主である川井奈津子という看護婦の元へ、波越警部と明智は聞き込みに出かけた。身分証明書は2、3日前に盗まれたもので、午前1時頃は寮にいたと言い張った川井に対して、明智は彼女が格子柄を好んでいることを、既に同僚の看護婦から聞き込んでいた。そんな時、この病院の医師である榊という男が、彼女は自分と一緒にいて、研究メモを取っていた、とアリバイを証明した。
 だが、榊は川井を庇うために偽りの証言をしたのだった。昨夜10時頃、電話をかけてもいなかった、という榊に対して、川井は自分が潔白であることを強調した。だが、この一月前から、川井の様子が変わってきているのに、榊は気付いていた。こうして二人が話し合っていたとき、外科部長の大沢が姿を見せた。榊がその場を去ったあと、大沢は川井に対して、研究助手である君に病院内で妙な噂を立てられて欲しくはない、と注意を促した。
 
 明智探偵事務所では、あの晩文代が目にした男が、ファッションデザイナーである進藤であることが明らかになっていた。ファッション、画壇、文壇で、それぞれ新進の立場にある3人がなぜあの場にいたのか。明智は、進藤の歳が39であることに気付くと、三田村と青木の年齢を確かめるように文代に指示し、三田村も青木も39歳であることが判った。小林は、昨晩、森林公園の西口で格子柄のワンピースを着ていた女を乗せたタクシーのことを突き止めた。桜台の駅で降りたその女は、クレゾールの臭いをプンプンさせていたという。そして、事務所にやってきた波越警部は、男が麻酔薬をかがされて首を吊っていたことが解剖で明らかになった、と明智に言った。明智は、解剖の結果男が死に至る病に罹患していたことがわかったはずだ、と波越警部に言った。そのとおり、男は胃癌で一月保たない状態だった、驚く波越警部に対して、札束を燃やして歩くような男は欲も徳も無くなっていたに違いなく、そんな状態になるとすれば死を覚悟していたに違いない、と明智は推理を語った。また、鑑定の結果、小指のミイラは男のものであり、20年は経過しているものと判明した。明智は、その小指を波越警部に頼んで預かることにした。男の身元は、未だに明らかにはなっていなかったが、推定年齢が35から40ということから、あの場に現れた三田村や青木、進藤と同じく被害者も39である可能性が高いのでは、と文代は示唆した。
 川井奈津子については、駅で森林公園への道を訊ねた格子柄のワンピースの女の目撃情報があり、さらにその時、寮に川井がいないことが聞き込みの結果わかったことから、波越警部は川井への疑いを深めていた。だが、明智は偶然同年代の男たち、小指のミイラ、そして五重塔の写真の方に興味がある、と答えるのだった。事件の真相は、この小指のミイラに隠されているのだ、と。

 ファッションデザイナーの進藤は、自宅のマンションのドアに、五重塔の写真が貼り付けられいたのを見つけると、「今度はおれの番だというのか!」と写真を破り捨てた。何度かこの写真が送りつけられてきたことを気にしていた進藤の恋人でありモデルの日下麗子は、破られた写真を手に明智探偵事務所を訪れた。破られた写真に写っていたのは、絞殺された男が持っていた写真と同じものだった。三枚送りつけられてきた写真の五重塔は、だんだんと大きく表されていた。そして、この写真が見つかるときは、決まって猫の鳴き声がした、と日下は言った。
 日下は、このイタズラをした犯人を見つけて欲しい、という依頼を明智にした。また、ひどく怯えた進藤は「あいつにかけあってやる!」と言って飛び出したまま、戻らなかったのだった。明智は、首吊り事件の新聞記事を日下に示すと、この事件のことを進藤は気にかけていなかったか、と日下に訊いた。日下によれば、この事件のことをやはり進藤は気にしていたという。明智は、この三枚の写真が殺人の予告ではないか、と推測していた。
 そんな時、首吊り遺体の身元が判明した。タクシーの運転手、鶴田正男で年齢は39歳だった。同僚によれば、自殺は考えられない、ということだった。“金蔓を掴んだ”と喜んでいたというのだ。また、ギャンブルにうつつを抜かし、妻には逃げられていた。事件の日は早番で仕事を終え、今夜は金が入る、と口にしていたらしい。そして、鶴田の出身地には富士北市としか書かれていなかった。
 
 ドリームランドの幽霊屋敷の中、模型の五重塔のそばで、滑車とロープで首を吊った状態の進藤の遺体が発見された。現場に駆け付けた明智は、川井奈津子の姿を目撃した。進藤の遺体には、やはり五重塔の写真があった。文代の調べによれば、進藤、青木、三田村の3人は富士北市の出身であり、鶴田もまた富士北市の出身である。同じ年齢、同じ出身地ということで、明智はこの事件の確信が富士北市の過去にあるのではないか、と考え始めた。
 翌日、明智と波越警部は、富士北市へ向かった。鶴田と進藤が同年齢であり、小指のミイラが20年ほど経っていることから、高校を調べるべきと考えた明智は、彼らが卒業した静岡県立富士北高校に足を向けた。進藤と青木、三田村は高校の誇りである、という校長は、五重塔のある明国寺と滑車、首吊り殺人について、エリートだった彼らと関係のある事件が過去にあったことを話した。
 彼らと同級生だった児玉は、進藤と鶴田の死体の側に五重塔の写真があったと聞くと、「これは杉村の祟りだ」と波越警部に言った。それに拠れば、クラス一の秀才だった鶴田たちには、共同の恋人、南志津枝がいたのだという。その女性を、岩崎という男が暴力で犯し、その岩崎を殴り殺した杉村が五重塔のそばの土蔵で首を吊ったということらしい。児玉の案内で、明智と波越警部は五重塔に向かった。その五重塔のある境内が、鶴田たちの集合場所だった。鶴田のグループは七人で、残り一人は東都大学の脳外科のホープで、大沢だった。東都大学付属病院は、また川井の勤める病院でもあった。

 調査を終え、事務所に戻ってきた明智を、大沢が待っていた。鶴田と進藤の事件で、五重塔の写真が送られてきていたのを聞いた大沢は、自分のところにも同じ五重塔の写真が送られてきた、と言ってその写真を見せた。富士北市に行って五重塔の実物を見てきたという明智は、過去の事件について、三田村、青木も同席の上で詳細をうかがいたい、と大沢に頼んだ。
 大沢の自宅で、明智と波越警部は、三人から過去の事件について聞き始めた。
 21年前、高校3年生だった大沢、青木、三田村、鶴田、進藤、そして岩崎、杉村は、南志津枝を中心としたグループを作っていた。霊媒を母に持っていた志津枝は、黒猫を友にして、7人の未来を占っていた。7人は、志津枝に対して恋愛感情を有してはいけない、という協定を結んでいた。だが、岩崎がその協定を破り、彼らが神聖視していた土蔵で静江を犯したのだった。だが、それを目撃した杉村は岩崎を殴り殺し、自分が岩崎を殺したという遺書を持って、滑車とロープを使い、土蔵で首を吊ったのだった。事件について、やはり警察の取り調べを受けたが、杉村の遺書により潔白が証明されたのだ、と大沢たちは語った。
 あれ以来鶴谷は逢ったことがない、と語る3人は、あの夜公園で文代に目撃されたことについて、“南志津枝”を名乗る女性から電話がかかってきたために公園へ行ったのだ、と説明した。岩崎三郎の霊を呼び出すから、来てくれ、と。
 五重塔の写真を殺人予告に使っていることから、これまでの事件はおそらく殺された岩崎の身寄りによる復讐に違いない、という3人に対して、明智は小指のミイラを見せた。20年以上前のものであることから、この小指が岩崎殺しに関係のあるものであり、しかもこの小指と滑車、それにロープを持ち歩いていたことから、鶴田は誰かを強請っていたのではないか、と明智は語った。
 明智の指摘に、3人は自分たちが鶴田に強請られていた、と真相を語った。しかし、小指は初めて目にしたものであり、岩崎に噛み切られた杉村の小指ではないか、と三田村は言った。鶴田は、滑車とロープを杉村の母から譲り受けたらしく、その小指もその時にもらい受けたものかもしれない、というのだった。
 明智は南志津枝の行方についても聞いたが、3人とも知らないようだった。父親と二人暮らしだった彼女は、事件の後富士北市を去ってしまったらしい。
 その時、寝室から黒猫が出てきた、と大沢の妻が悲鳴を上げた。寝室を調べていた大沢は、ベッドに五重塔の写真が置かれているのを見つけ出した。周囲を調べようとした明智は、逃げていく川井の姿を見た。大沢の妻は、あの看護婦と自分の夫が不貞の仲だ、と明智につぶやいた。
 明智は先回りして、寮に戻ってきた川井を待っていた。鶴田の首吊り現場でも、進藤の遺体が発見された遊園地でも、そして今日また大沢の家のそばでも川井の姿が目撃されたことについて、明智は見え透いた嘘をつけばいっそう疑われる、と川井に告げた。そして、川井の出身地が富士北市であることを指摘した。それについては認めたが、大沢との関係、そして大沢達のグループについては、川井は何一つ認めようとはしなかった。

 事件解決の鍵は富士北市にある、と確信した明智は、再び富士北市へ向かった。土葬された杉村の遺体を、現地の警察に依頼して発掘してもらった明智は、その両手に小指が揃っていることを確かめた。明智は、さらに南志津枝の父親、彦次郎を訪ねた。五重塔に関わる殺人事件のことを聞きに来たと言って、明智は志津枝の父親に川井奈津子のことを訊いた。静江の父は、川井奈津子は静江が生んだ娘だ、と明智に答えた。高校生のうちに男と好き合ってしまって、という静江の父は、岩崎が川井の父であることを認めた。だが、岩崎が静江を犯したということについては、頑として否定した。難産で命を落とした志津枝は、最期まで岩崎のことを好きだった、と言っていたというのだ。養女として川井の姓で育てられた志津枝の娘奈津子は、高校になって両親のことを知り、志津枝の父の元へ現れ、父の岩崎が殺されたときのことを訊こうとしたのだった。岩崎は杉村一人に殺されたのではない、と志津枝が思っていたということを奈津子に話した志津枝の父は、川井を助けてくれるよう明智に頼み込んだ。
 一方、東京では、留守の明智に連絡を取ろうとしていた日下麗子が殺されるという事件が起こっていた。日下の手には女の髪が握られており、しかもその時目撃された不審人物は格子柄のワンピースを着ていたということから、波越警部は川井の犯行であることに間違いないと考えた。
 明智は、鶴田が一時入院していた病院を突き止め、若い女が面会に来ていたことを聞き込んだ。その女は専門用語を使っていたことから、看護婦だったらしい。事務所に戻った明智を、大沢の妻が待っていた。大沢と川井奈津子との関係を調べて欲しい、という依頼を、大沢の妻は持ち込んで来た。力になって欲しい、と縋り付く大沢の妻に対して、依頼人のお役に立つのが探偵です、と優しい言葉をかけ、明智は大沢の妻の髪を撫で付けるのであった。
 大沢は、資料整理のためと称して、自宅に川井を呼び寄せていた。川井が初恋の人に似ている、と大沢は言い寄ろうとしたのだが、川井はペーパーナイフを手にして、大沢の手から逃れようとした。そして……。
 川井があわてて大沢の家から飛び出してくるのを目にした張り込みの刑事とともに、波越警部らが大沢に話を聞こうとして邸内に入ると、滑車とロープで吊られて瀕死の大沢がいた。ペーパーナイフで傷つけられた頬を鏡で見ていたら、何者かに麻酔薬をかがされて吊られてしまったという大沢の胸元には、あの五重塔の写真が!
 大沢の入院先に駆け付けた三田村と青木は、その場にいた波越警部に自分たちにも写真が送られて来た、と詰め寄った。犯人の目星はついているから安心して欲しい、という波越警部。
 その言葉どおり、寮に戻ってきた川井に対して、波越警部は事情聴取を始めた。富士北市に行って志津枝の父、彦次郎に会ってきたという明智に、誰が父の岩崎を殺したのか、それが知りたいだけだった、と川井は言った。それを聞いた明智は、この件は榊と二人で話し合ってから、と取り調べを中止させた。憤る波越警部に対して、日下麗子殺人の時、犯人はなぜ格子柄という派手な服装をしていたのか、と明智は指摘し、これは川井奈津子を罠にかけるための何者かの陰謀であることを、明智は推理していた。

 翌日、11時に森林公園の中央広場で何もかも話したい、という川井からの伝言を文代が録音した。それを聞いて、明智は森林公園へ向かった。森林公園には川井奈津子も現れた。だが、川井は父の事件のことでここに呼び出されたということで、明智に電話をしたわけではなかった。誰かが何かを企んでいる、と看破した明智だったが、いずれにしても川井が現れたということから、事件の真実について川井と話をすることにした。
 公園で、川井は、大沢の元へ鶴田が電話をしてきたのを知って、岩崎の死について鶴田に話を聞きに行ったこと、鶴田が21年前の事件について何もかも明らかにすることを約束したこと、森林公園に呼び出され、少し遅れて辿り着いたときにはすでに鶴田が吊るされていたこと、進藤の遺体が発見されたときも、進藤の名で事件のことで話があると呼び出されたことなどを、明智に話した。
 一方、事務所に榊が訪れた。1時にここで川井と落ち合う約束をしたという榊に対して、明智が川井に11時に森林公園で逢いたいという連絡を受けたという文代。だが、録音された声は川井のものではないと、榊は言った。それを聞いた波越警部と文代、小林らもまた、森林公園へ向かった。
 話を聞き終えた明智は、川井を車に乗せ、事務所へ戻ることにした。
 だが、車中には時限爆弾が仕掛けられていた。エンジンの始動と同時に、カウントを始める時限爆弾。
 かすかな音から時限爆弾に気付いた明智だったが、そのカウントは10秒を切った
 森林公園へ向かう途中、波越警部らが見たのは、爆炎が噴き上がる明智の車だった。
 そのそばには、川井のハンドバッグと明智の靴が転がっていた……。
 

 五重塔に秘められた因縁、21年に及ぶ事件の真相は!?
 連続殺人を犯した悪魔のごとき犯人の正体は!?
 すべての真実は、すべての端を発したあの土蔵で明らかになった!!
 

感想:

 霊媒による祈祷シーンから始まりながら、解決はきちんとした推理で終わるという、いささか異色の展開を有する本作もまた、このシリーズの中でも屈指の出来を誇る作品である。
 怯えながらも狂ったように笑いながら札束に火を点け闇の中を歩き回る鶴田という怪しい男を追う文代の描写、という冒頭のシーンから観る者の目を離させない造りになっている。そして、その公園に現れる曰くありげな3人の男、現場から逃げ去るワンピースの美女、そして鶴田の死体にまとわりつくかのような猫の鳴き声、序盤でお腹一杯になってしまうような話から始まり、さらに進んでいくうちに21年前の事件の謎、五重塔が導くかのような連続殺人、そして明智にしかけられた危険な罠、とこれでもかと言わんばかりのイヴェントの釣瓶打ちである。これだけ、いろいろな出来事をちりばめつつも、最期の解決は明智の推理によってなされるのだから、物語の面白さとしてはもう文句のつけようがない。
 推理ドラマとしても、冒頭のおどろおどろしさとは裏腹に、その場に現れた進藤の年齢から他の男たちの年齢についても類推し、そして調べた結果男たちの出身地は皆同じ富士北市であったということから過去の事件に辿り着き、そこから現在の事件の真相を推理していくという流れは実に魅惑的である。特に、明智が犯人を指摘する際に使用した証拠の入手の巧みさは驚くべきものがある。この巧みさは、『氷柱の美女』における証拠入手シーンと並んで、シリーズ双璧であろう。《美女》シリーズの明智小五郎は、本当に証拠の入手シーンがさりげなく、それでいてしっかりと描かれているので、観ている方も油断が出来ない。
 登場人物も書き割りのような存在ではなく、細かいところで生活感を出していて、ドラマのリアリティを高めている。物語の鍵を握る3人の男たちも、登場の回数はそれほど多くはないのだが、それぞれ個性を明確にしていて観ている者のミスディレクションを誘いまくる。まとめ役の大沢、小心で誠実そうな三田村、傲岸で強気の青木、とそれぞれが疑えば疑える、疑わなければ疑われないという人物造型の妙がある。当然一番の容疑者と看做される川井奈津子の描写は、ひたすら怪しく描かれていながら、実は……という手際の良さである。
 そう、霊媒の登場、首吊りによる連続殺人、21年も昔の因縁など、ドロドロとした事件が続きながらも、最後は素晴らしくもハッピーエンドで終わるのだから、本作は爽快感もこの上ない。これは、やはり川井の恋人役である榊の存在と、川井の祖父である彦次郎という存在を配役したことに尽きるだろう。特に、彦次郎が孫の幸せのために明智に縋るシーンは必見である。これがなければ、探偵である明智にアンビバレンツな心情を与えることができなかったろうから、推理ものとしても重要な部分でもあるし、もちろんドラマの出来の良さにも一役買っている。
 こういう人情部分にもきちんと踏み込んでいるのだから、やはり《美女》シリーズは単なるエログロだけが売りというわけではないのだ。

 その分、《美女》シリーズ名物の裸の美女がお風呂でうっふん、なシーンは少ないので、そっち方面を期待していた人にとってはいささか肩透かしな部分があるのは否めない。
 また、物語冒頭に登場し、最後の解決に繋がる決定的な証拠であった“小指のミイラ”については、ドラマの構成上必要不可欠だったとは言え、実は犯人像に適わないという問題もある(というか、犯人はまずこの職業にはつけないと思うんだよなぁ)。
 さらに、敢えて言ってしまえば、明智小五郎爆死!のシークェンスも不要と言えば不要なのだ。普通の二時間推理ドラマだったら、川井に話を聞いた直後に、明智が関係者全員を集めて「さて……」という展開になるだろう。まあ、このシリーズは事件の真相を説明するシーンにおける明智先生の変装剥がしの部分が最大のクライマックスであるわけだし、今回の事件の真相説明シーンに持って行く都合としては悪い展開ではないし、ついでに言えば今回の変装剥がしは事件の真相を説明するのにベストマッチングだったように思うので、文句があるわけではないのだが、“欠点がないものはない”という視点からすると、そういった点は少し気になるところである。
 いずれにしても、この時期の《美女》シリーズは脂が乗り切った逸品揃い、どれを観ても時間を損したという気にはならないだろう。
 

見どころ:

  • 今は亡き雄姿(?)の数々

  • 聖徳太子の一万円札〜 横浜ドリームランド〜

  • 土蔵の場所

  •  富士北市吉野53番地
     五重塔もこの近辺にあるものと思われる
     
  • 今回の明智先生の名台詞
  •  「愛の力は、われわれの推理よりもずっと強いものです」
     それに対して波越警部は「うちのローンは、まだまだいっぱい残ってるんだよなぁ」とぼやくのだった。どうやら、波越警部はローン持ちであるようだ。
     
  • 文代の恥ずかしい姿再び

  • 柔軟運動中の文代タン

    さらに柔軟運動中の文代タン

    さらにさらに柔軟運動中の文代タン……事務所で美容体操しまくらないように



  • 明智先生のお車

  •  マツダ・ルーチェ(色は白)、ナンバーは「品川58 て 44−90」 
     ちなみに爆破の際に、クラウン→コロナ・マーク2(ナンバーが手書きで44−30になっている)古いトヨタ・コロナに化けております(笑)(明智くん様ご指摘)
     
  • 波越警部の車

  •  ニッサン・セドリックのピラーレスハードトップ(色はマルーン)、ナンバーは「品川33 そ 66−43」
     覆面パトカーである。
     
     

    下のロゴにマウスポインタを乗せると、画像代替の文字列として、今回の明智先生の変装がネタばれされます。
    今回の明智先生は、南志津枝の父、彦次郎に変装しています
     
     
     

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