STUFF

プロデューサー	牧野秀幸（テレビ朝日） 佐々木孟
原作	江戸川乱歩
脚本	篠崎　好
音楽	鏑木　創
撮影	鈴木則男
美術	重田重盛
照明	中川孝一
録音	原田慎一
編集	後藤彦治
記録	桜木光子
装置	小島勝男
装飾	鈴木章司
美粧	大西和子
スチール	樋口　通
題字	広野まさる
調音	松竹映像録音スタジオ
衣裳	松竹衣裳
現像	東京現像所
助監督	梶浦政男
進行	水島誉志次
プロデューサー補	大塚尚史
制作主任	池田義徳
衣裳協力	ロコ・アトリエ・タカダ 洋服のコナカ きもの鈴乃屋
監督	長谷和夫
製作	テレビ朝日 松竹株式会社

映像特典
ＤＶＤトレーラー

STORY：

　多摩川の丸子橋付近で、いくつもの風船に釣られていた何かが落ちてきたのを、遊んでいた子供たちが拾い上げた。紙に包まれたそれは、女性の切断された両脚だった。新聞はこの怪事件を早速取り上げた。この事件の担当になった波越警部は、明智に知恵を借りに来た。二十代の健康な女性の大腿部を乱暴に切断したもの、ということまでは鑑識の結果判明しているのだが、その両脚の持ち主については、未だに身元が判明していないのだ。
　しかし、茶会への出席ということで、明智が波越警部に助力するのを文代が禁じてしまう。明智は、厳格な教育で知られる山野文化学院の理事長、山野五郎主催による茶会に出席を約束していたのだ。山野邸に赴いた明智は、招かれたのが自分だけだと知った。明智を迎えた山野の若妻百合江は、茶会と称して明智を呼んだ用件を話そうとした。その時、人の気配を感じた百合江は、マッサージ師宇佐美鉄心がやって来たことに気付くと、彼を払ってから、明智に話を始めた。内聞にということで、百合江が明智に依頼した内容は、一人娘の道子を探して欲しい、ということだった。義理の仲であり、しかも７つしか歳が離れておらず、道子が百合江に抱く感情は蟠っていたという。それでも５日も連絡のないまま道子が帰宅しない、しかも道子がいつ、どうやって家を出たのかもわからないということから、百合江は明智にこの依頼をしたのだった。
　明智は、道子の部屋へ案内してもらった。そして、家政婦のキミから、道子が失踪したときの状況を聞き出した。その日は、山野とその秘書小松ひとみが屋敷におり、仕事の後ひとみは道子の部屋で何かを話していたという。そして、２２時頃、ひとみが出て行くのをキミが見送った。その1時間後、百合江が帰宅し、道子の部屋に声を掛けたが返事がなく、翌日の昼頃新しいピアノが届いたということで合鍵で部屋の扉を開けたとき、屋敷の者はいつの間にか道子が部屋から消えていたのを知ったのだった。部屋は完全に密室の様子を呈していたが、明智による質問で、道子が愛用している靴と鞄が消えていることが確かめられた。密室であるにも関わらず、家出をした証拠が残っているということから、実は道子がこの屋敷を出ていないのではないか、と明智は考えた。
　明智は、道子の部屋に置かれていたグランドピアノに目をつけると、その共鳴板を開いた。その内部は何の変哲もなかったが、道子の死体があることを想像してしまった百合江は昏倒してしまう。
　気絶した百合江は別室で眠っていたが、その百合江の身体を撫で回す者がいた。マッサージ師の鉄心だった。鉄心は、愛撫をしているかのように、百合江の身体を摩り、揉み、触るのだった。

　明智は、風邪をひいて学院を休んでいたひとみのアパートを訪ねた。道子のことを訊いていた明智だったが、その時一人の青年が現れた。学院のピアノの教師蕗谷真一だったのだが、ひとみの顔を見た途端、しどろもどろな表情をして去っていってしまった。結局、ひとみから道子の行方について有用な情報を入手することはできなかった明智だった。
　一方、深夜、あるデパートでは尼僧が侵入していたのを巡回していた警備員が目撃した。追跡したものの、尼僧を捕まえることはできなかった。だが、翌日、結婚式の準備のためデパートに来ていた母娘が、和服の結婚衣装から突き出していた切断された手首を発見した。発見された手首の指にはエメラルドの指輪が填められていた。明智は、目にした道子のポートレートで道子もまたエメラルドの指輪を填めていたことから、道子の部屋の指紋検出を行った。ヘアブラシから検出された指紋と、デパートで発見された手首の指の指紋とが一致し、また部屋にあったインクの吸い取り器にあった指紋とも一致したことを、明智は百合江に説明した。その時、差出人が不明の小包が百合江宛に送られて来た。その小包の中身は、切断された手首と対となる手首だった。ことここに至り、切断された手首は道子のものである可能性が高い、すなわち道子は殺されたものと思われる、と明智は百合江に告げた。百合江は気を失いそうになったが、このところ伏せっていたはずの山野五郎が、その話をこっそりと聞いていたためなのか、先に倒れてしまう。
　明智は鉄心に話を聞いた。世を捨てた人間だから、という鉄心は事件のことには興味がない、と言うのだった。
　山野邸を辞そうとした明智だったが、学院のピアノ教師蕗谷真一が山野を訪れたのに気付いた。その蕗谷は、山野に対して留学の世話をすることを強要し、山野はそれを承諾した。１０００万円もの小切手を手にした蕗谷に対して、明智は質問をしたのだが、前々から決まっていた留学の費用だから、と蕗谷は明智に答えたのだった。明智は、小林と文代に命じて、蕗谷の周辺、学院との関係、そしてひとみとの関係を調べさせた。
　その結果、蕗谷真一と、小松ひとみ、そして山野道子との間には三角関係が存在したことが判明した。もともと蕗谷の恋人はひとみだったのだが、それを道子が強引に奪ったということらしい。明智は百合江にもその話を聞くことができた。厳格な山野は、そのことで心を痛めていたのだともいう。一時は蕗谷を道子から遠ざけようという話もあった、という百合江に対して、明智はその留学の餞別が１０００万円とは豪毅なものだと言った。そのことを知らなかった百合江だったが、明智が山野に話を聞きに行こうとするのを遮り、確かにその金額は引谷の留学費用だ、と訂正したのだった。
　
　明智探偵事務所では、波越警部も交えて、今回の事件について議論がされていた。道子が殺されたのはわかっているとして、問題は誰が彼女を殺したか、ということに焦点が絞られていた。
　小林は、最後に道子を目撃したひとみが犯人だと考えていた。だが、この場合死体の処理について解決することができない。明智は、死体は古いピアノに入れて持ち出されたと考えていたが、犯人が小松ひとみであることを断定する材料にはなりそうになかった。しかも
小松ひとみには悪い評判はなく、犯人と目すには不自然な部分が多々あった。
　文代は、百合江こそが犯人だと指摘した。依頼人が真犯人だったという事例は数多くあり、しかも道子が亡くなることで山野家の遺産相続人は百合江だけとなるのだ。
　波越警部は、山野五郎を怪しいと睨んでいた。これまで健康体だったのが、急に寝込んでしまうというのは娘を殺した罪の意識からではないか、というのだ。明智もまた、山野に不審な点を抱いていた。
　だが、明智が一番関心を抱いていたのは、遺体を遺棄して回る謎の尼僧のことだった。あの尼僧が誰かの変装であることが考えられ、その正体を知ることが今回の事件の真相に近付くカギだ、と明智は言った。明智は、その正体を探るべく、あの夜尼僧が駆け込んだ荒寺をもう一度訪れた。だが、近所の人に拠れば、前の住職が首を吊って以来、この寺は無人なのだという。しかも、女の幽霊を見たという話もあるというのだ。

　入力していた百合江は、階上から響いてくるピアノの音を耳にした。今ピアノを弾く者は、百合江以外にはこの屋敷内にはいないはずなのだが、しかし間違いなく、道子の部屋からピアノの音が響いていた。百合江は思いきって室内に入ったが、そこには誰もいなかった。たまらず部屋を飛び出した百合江は、階下に道子の姿があるのを見て驚愕した。階下から上がってきた鉄心に、ピアノの音を聞かなかったか、と訊いた百合江だったが、鉄心はピアノの音なぞ聞こえなかった、と答えた。気を弱くした自分に言い寄るかのような鉄心を百合江は拒絶したが、鉄心のサングラスは白いネグリジェを翻して去っていく百合江の姿を映したまま放さないのであった。
　
　尼僧についての手がかりを失った明智は、再び小松ひとみのアパートを訪れた。だが、小松ひとみもまた、アパートから一切の荷物を引き払って、姿を消していたのだった。しかも、学院には退職届が郵送されているという。松本の奥の方がひとみの出身地であるということから、明智は小林を調査に向かわせた。
　その結果、驚くべきことがわかった。小松ひとみは、山野五郎の私生児だったのだ。道子が生まれる前、芸者に生ませた娘なのだという。明智はこのことから、ひとみの失踪が自分の意志に拠るものではなく、誰かの手によって失踪させられたに違いない、という確信を強く持った。
　文代は、お手伝いとして山野邸に潜入していた。百合江の部屋で、文代が発見したのは、道子が愛用していたポシェットであった。文代が去った後、百合江は蕗谷真一からの電話を受けた。彼があと１０００万円を要求するのを受け入れ、ナイフを用意すると、蕗谷との約束の場所へ車を走らせた。その車のトランクには文代が潜んでいた。トランクから抜け出した文代は、百合江の後をつけたが、姿を一時見失ってしまう。と、突然百合江が駆け戻ってくるのを目にして身を隠した。百合江が駆け戻ってきた理由を、文代は目にした。背中にナイフが突き刺された蕗谷の死体がそこにあった。
　事件現場へ駆けつけた波越警部は、文代の証言を得て、百合江が犯人であることを確信した。ところが、明智はそれに対して疑義を唱えた。彼女は、必死になって誰かを庇おうとしているだけではないか、と。
　屋敷に戻ってきた百合江は、山野五郎が寝ているはずの寝室が蛻の殻だったことを知り、驚愕する。家政婦の話では、百合江が出た後、山野もまた車を出したのだという。しかも行く先は、百合江と同じ横浜だ、と。
　屋敷に戻ってきた山野は衰弱しきっていた。寝室でうなされる山野を看病していた百合江は、部屋の外に置かれた封筒に気付いた。その封筒に収められていた手紙は、百合江に、すべての真実について明かされたくなければ浜離宮裏水門へ来い、というものだった。その手紙に従って浜離宮裏へと向かった百合江を、怪しげな尼僧が誘った。尼僧が運転する車に乗せられた百合江は、あの荒寺へと連れて来られてしまう。本堂の中に足を踏み入れた百合江は、尼僧の示すままに隠し扉の奥へと足を進めた。地下に続く階段の先で、百合江が目にしたものは無数の腕や足、胴体のオブジェだった。しかも、それらはすべて百合江の手足を形どったものだったのだ。そして、そこに現れたのはマッサージ師の鉄心だった。百合江の身体のすべてをこの指が知っている、という鉄心は、すべての真実を自分が握っており、自分が洗いざらいなにもかもぶちまけてしまった時、山野家は破滅するのだ、と百合江を脅すと、彼女を抱き締めた。鉄心は、百合江の身体を愛撫しながら、百合江が学院の生徒だった頃から思いを寄せていたことを熱く語った。鉄心の愛撫に一瞬我を忘れかけた百合江だったが、最後の一線を超えようとしたとき、鉄心を拒絶した。その弾みで露になった鉄心の醜い素顔に、百合江は悲鳴を上げると気を失ってしまうのだった。

　翌日、屋敷に戻ってきた百合江を明智が訪ねてきた。明智は、蕗谷が殺されたことについて事情を聞くために百合江のことを警察が捜していたことを話すと、警察が来る前になにもかも話してはくれないか、と頼んだ。だが、鉄心が監視していることに気付いた百合江は、昨夜は多摩川に夜桜を観に行っていた、と明智に言った。せっかく観に行ったのに、春の嵐で無残に散っていた、とも。それを人生に例えた百合江に対して、山野五郎との結婚についてのことだと思った明智はそう訊き返してしまうが、百合江はそれを強く拒絶した。現在音楽の作曲家コダーイのことを引き合いに出し、百合江は山野との結婚を後悔していないどころか、彼を深く愛していることを明智に語った。
　と、そこへ波越警部らが現れた。波越警部は蕗谷真一殺しについて、百合江から事情聴取を行うため、署への同行を依頼した。それを止めようと山野がやって来たとき、百合江は蕗谷真一を殺したのは自分だ、と叫んだ。
　だが、明智はそれを制すると、山野に対して、今こそ真実を明らかにするときではないのか、と言った。このままでは、誰よりも山野を深く愛している百合江が罪人になってしまう、と。なにも知らずに事件の依頼をした百合江だったが、道子が殺され、蕗谷が殺され、それを山野が手を下したのではないか、ということに心を痛めていたのだ、と明智は説得の言葉を重ねた。
　明智の言葉に、山野は真実を語り始めた。あの夜、道子の部屋で、道子とひとみの言い争いがあったのを山野は知っていた。道子の乱脈極まりない放蕩ぶりは無論のこと、一人の男を巡って血を分けた姉妹が争っていることがマスコミに知られたら山野文化学院のイメージに対するダメージになるのは必定であることから、とにかく山野はこの場を収めてひとみを帰らせた、という。そして、妾腹ながらもそのことに不平を言うわけでもないひとみを不憫に思っていた山野は、実の妹でありながらひとみの恋人を奪った道子の行為を許すことができず、石膏像を振り上げて道子の後頭部を殴りつけていた、と一堂に語った。死体はピアノに隠して運ばせた、というところまで語った山野だったが、再び昏倒してしまう。
　幸いにも命には別状ないということで、病院に運ばれる山野を見送った波越警部は、これで事件は解決したものと考えていた。だが、明智はそれを否定した。蕗谷殺し、道子の殺害、ひとみの失踪、それらすべてが解決していないのだ。そして、明智は、「山野の告白を信じているんですか？」と波越警部に言うのだった。
　山野が入院している病室は、波越警部と警察官が見張っていた。だが、波越警部がニセ電話で誘き出された隙に、山野もまた殺害されてしまう。

　ことここに至って、明智の推理は、百合江の身に危険が迫っていることを示していた！
　あの荒寺、養源寺へと向かった明智が見たものとは！
　そして、明智の推理が告げる事件の真相とは!?

感想：

　事件や出来事そのものは淡々と起こるので、意外と注目すべきところを指摘することができないのは、作劇上の不備だとは思う。特に、会話シーンに次のイヴェントがインタラプトされるような造りは、いくらドラマとはいえ、よくないのではないだろうか？　誰かが話し合っていると、その時何かが起こった！みたいな展開が多すぎる感がある。確かにドラマとしては、畳みかけるように次のサスペンスがやって来るとは言えるわけだが、逆に言うと先に書いたようにベルトコンヴェア的にイヴェントが発生しているということになるのだから、もう少し構成を考えて欲しかった。

　本作は、明智小五郎の探偵としての能力が恐るべきものであることを示す作品でもある。なにしろ真犯人が明智を閉じ込めた！と油断しているわずかの間に、事件の真相を明らかにするに足る証拠を発見しまくってしまうのである。犯人となったならば、間違っても明智はアジトに導いてはいけない人物であることを再確認することができるのだ。というか、あれだけの短時間で証拠を見つけまくった上に変装までしてしまう明智先生の早業には吃驚である。
　謎解きについては、明智小五郎の正体明かしシーンからの颯爽たる展開があって不満はないのだが、真犯人像がドラマ中に提示されていないのは、推理ドラマとしてはアンフェアだろう。まあ、《美女》シリーズにフェアもアンフェアもあるか！というツッコミはあると思うけど。明智小五郎の颯爽たる謎明かしを堪能するという意味では文句はないのだが、クイーンファンでもある手前としては、どうしてもフェアな展開を期待してしまうのである。もっとも、推理ものとしてはアンフェアであっても、それを忘れさせるような怒濤の展開や謎明かしがあれば気にはならないのだから、その点本作はやはり力不足な部分があるということだろう。

　それにしても、初見から気になっていたのだが、バイオリニストになろうとするくらいの人は、ピアノも簡単に弾けるもんなのだろうか？

見どころ：

　そのおかげで明智先生と波越警部は、事務所でおちおちとタバコを吸うことができないのであった。

　その挙げ句に、「美人には甘い！」と、文代に以後事務所での喫煙を禁じられてしまう
 

　やっぱり、叶和貴子が出ていたあの作品に対するリスペクトなんだろうか？
 

　鉄心も剥ぐ

　ひとみさんまで剥ぐ

　明智先生は当然として、鉄心は必要上仕方ないとして、なんでひとみさんまで変装を剥ぐんだろう？
　状況から考えれば、ひとみさんは剥ぐような変装は必要なかったはずなのだが……もしかして、明智先生が（無理矢理）変装させた？