STUFF

プロデューサー	植野晃弘（テレビ朝日） 稲垣健司（テレビ朝日） 佐々木孟
原作	江戸川乱歩
脚本	ジェームス三木
音楽	鏑木　創
撮影	小杉正雄
美術	猪俣邦弘
照明	佐久間丈彦
録音	鈴木正男
編集	鶴田益一
装置	谷津勝利
装飾	印南　昇
記録	宮下こずゑ
結髪	三岡洋一
美粧	相馬優子
スチール	樋口　通
衣裳	松竹衣裳
調音	松竹映像録音スタジオ
現像	東洋現像所
スタイリスト	太田洋子
監督助手	斉藤朋彦
助監督	増田　彬
進行	田沢連二
製作進行	平川　秀
プロデューサー補	中川滋弘
アートアドバイザー	西田　真
振付	篠井世津子
製作主任	沼尾　鈞
協力	ロコ・アトリエ・タカダ よみうりランド ドリームランド 京急油壷マリンパーク ホテル大東館 熱川バナナ・ワニ園 伊豆シャボテン公園
監督	井上梅次
製作	テレビ朝日 松竹株式会社

映像特典
９０秒予告／１５秒予告（２タイプ）／ハイライト

STORY：

「私が手がけた事件の中でも一番スケールの大きい、そして一番恐しい事件」
　明智小五郎自身がそう語る事件、それが今回の『パノラマ島』事件だ。

「大自然をいっそう美しく、いっそう芸術的に、人間の力で作り替えたい。今まで誰も観たことのないような大理想郷を作り上げたい」……それが美術工芸デザイナーで３６歳の人見広介の野心だった。スポンサーを募るために一生懸命プレゼンテーションを行う人見だったが、彼の理想を理解してもらうことはできなかった。
　ゴルフ場にまで押し掛けての説得も効を奏さず、落胆してタバコをくわえた人見に、突然カラスが襲いかかってきた。追い払われても追い払われても、カラスは人見を追いかけ続けるのだった。
　一方、人見工芸には、薔薇密教の教祖・大野雄三が訪れており、人見の妻英子が応対をしていた。撮影所を馘になってパノラマ島などという夢を追いかけている広介に愛想を尽かしかけていた栄子は、甘言を囁く大野に身を委ねた。
　と、その時、カラスに追いかけられてきた人見が戻ってきた。カラスに反撃しようとした人見は、部屋で大野と出会してしまう。「パノラマ島を見に来た」と言って取り繕った英子だったが、人見は乱れた布団を見てすべてを察してしまったようだ。大野の機転で、とにかくカラスを追い払ったはずだが、カラスはしつこく人見につきまとい続けた。
　三日間もカラスに付き纏われたことから、人見は警察を呼んだ。そんなことで呼びつけられて激怒はしたのだが、それでもカラス退治をしてしまう“ヤングのアイドル（自称）”波越警部だった。３時間もの努力の末、波越警部はカラスを捕まえるのに成功し、その成果を明智探偵事務所に自慢？に行った。波越警部は、なぜこのカラスが一人の男に付きまとうのか調べることを、明智に依頼した。明智は、このカラスが人懐こく、餌付けされていることから、カラスは誰かのペットであり、迷子になったところを、飼い主に似た人物を見つけたのでまとわりついたのではないか、と推理した。

　明智の推理は正しく、このカラスは西伊豆に住む菰田源三郎（４９歳）の飼っていたペットのカラスだった。ラジオで尋ねカラスのことが放送されており、大野と英子は波越警部から奪うようにカラスを取り戻すと菰田の元へ向かった。菰田は長者番付に名を連ねる東海地方の山林王であり、英子は薔薇密教の大本殿を建てたいと願っている大野が、菰田と顔見知りになっておけば何かと役に立つと考えていたのだ。
　菰田の大邸宅に車を乗り入れた大野と英子は、菰田の妻千代子に礼を言われ、礼金も貰い、菰田が戻ってくるまでの間、と食事を振る舞われ歓待された。戻ってきた菰田を見た大野と英子は驚愕した。菰田源三郎の顔は、人見広介と瓜二つだったのだ。菰田はこのカラスの勘太郎ほか、何羽ものカラスを飼っていた。「人は裏切るが、カラスは決して裏切らない」と菰田は勘太郎を愛でながらつぶやいた。

　自宅へ戻ってきた英子は、人見と菰田が瓜二つなのを改めて確かめると、それを利用することを人見に訴えた。最初は鼻にもかけなかった人見だったが、菰田が数百億もの資産を持つ人物であることを聞かされ、英子の囁きに耳を貸し、薔薇密教の本部で大野と会うことにした。パノラマ島の実現に力を貸したい、という大野は、人見に菰田の写真を見せた。あまりのそっくりさに驚く人見に、大野はさらにとてつもない言葉を口にした。「この男と、あなたとが、入れ替わることができたとしたら……？」
　簡単にばれるに決まってる、とこの話を取り合おうとしない人見を、大野と英子は必死に説得した。菰田に成り代わった直後、何かのきっかけで記憶喪失になったふりをして、徐々に記憶を取り戻していく真似をしていけば、多少以前の菰田と違っても周囲は誰も疑わない、という大野に対して、人見は何を求めているのかを聞いた。パノラマ島に薔薇密教の殿堂を造ってもらうことだ、という大野。
　人見は、パノラマ島を実現するという夢のために、遺書を書き始めた。自分がいなくならなければ、菰田には成り代われない、と。

　菰田は、知人の結婚式から帰る車中、今回の結婚は政略結婚だ、と千代子に話した。自分たちの結婚にはなにかメリットがあったのか、と聞く千代子に対し、菰田は千代子自身に１０億あるいは２０億の価値があった、と答えた。
　そんな時、トンネルの出口で車が止められた。落石事故があって、と車を止めた男は運転手に聞かれてそう答えたあと、催眠スプレーを吹きかけた。菰田も千代子も、それで眠らされてしまう。車を止めた男は人見だった。菰田と自分が本当にそっくりであることを改めて驚く人見。そこに大野と英子がやってきた。眠っている菰田を連れ出そうとする大野と人見だったが、菰田は目を覚ましてしまう。運転手も目を覚まし、ドライバーを手にして菰田を助けようとしたが、大野にドライバーを奪われ、その弾みにガードレールに頭を強打して気を失ってしまう。だが、菰田は強く、組み敷かれかけた大野は、苦し紛れにドライバーを菰田に突き立てた。ドライバーの先に左の眼球を貫かれ、激痛にのたうつ菰田を置いて、人見たちは逃げ出すしか他なかった。

　“東海の山林王、襲撃さる！”は新聞の記事として取り上げられる事件となった。
　そんな時、銀座桃源堂社長夫人の釘谷房枝が明智探偵事務所を訪れた。釘谷は内密に明智の力を借りたい、と菰田源三郎の話を明智に行った。釘谷房枝は菰田の実の妹なのだ。今回の事件について、身代金目当ての誘拐未遂では、という明智に対して、釘谷はそれを否定した。今回の事件は、兄の後妻である千代子の差し金で行われた事件に違いない、と主張する釘谷は、その裏付け調査を明智に依頼しに来たのだ。憎悪があり財産目当てであったとしても、いずれは妻である自分に財産が手に入るのだから、今事を起こすというのはおかしいのでは？という明智に対して、釘谷は自分たち夫婦の次男を菰田の養子とすることが進んでいるのだ、と説明した。
　一方、計画が失敗した人見は、今回の失敗で菰田との成り代わりを止めようと考えていた。だが、大野と英子はそれを諦めようとはしなかった。菰田は片目を失った、という人見に対して、お前も片目になればいい、という大野は、英子の手を借りて人見の左目を潰してしまう。激痛に苦しむ人見は、大野と英子を罵るのだった。
　菰田邸では、菰田が医者に義眼の催促をさせようとしていた。その時、釘谷が二人の息子を連れて見舞いに現れた。また、釘谷は、明智をここへ連れて来ていたが、菰田は会おうとはしなかった。だが、明智という名に、千代子は反応してしまう。事件の時のことは千代子に聞け、という菰田に対して、ではまずは千代子さんに会ってもらおうかしら、と釘谷は明智と千代子を会わせることにした。釘谷は、養子の話を急がせようとするが、菰田は千代子の意見も聞いてから、と取りつく島がなかった。
　応接間で待っていた明智に会った千代子は、明智に自分が畑中節子の妹であることを告げた。かつて明智が手がけた事件であり、その時の千代子はまだお下げ髪の高校生だったのだ。千代子は姉が死んだことを明智に聞き、明智がそれを知っていることを聞くと、死ぬ直前まで姉は明智のことを想っていた、と言い、自分が姉に似ているかと明智に聞いた。
　山林王と結婚し、何不自由ない生活を送れると思っていたが、現実はこんな田舎に閉じ込められて……と、釘谷と明智を見送った千代子は、ピアノを弾きながら、先ほどの明智との対面を思い返すことしかできなかった――。
　その夜、寝室で養子の話を千代子にしていた菰田の容体が急変した。医者が呼ばれ、酸素吸入と心臓マッサージを行ったが、菰田は還らぬ人となった。典型的なガーナ氏症候群の発作、それが菰田の死因だった。
　この事件を聞いて、大野と英子は憤った。ここまで来て、菰田が死んでしまうとは予想外だったのだ。だが、「奇跡を起こせないのか」と栄子に言われた大野は、何ごとかを思いついた。

　葬儀の場では、釘谷が主治医に菰田の解剖について食い下がったが、発作が死因であることは間違いなく、監察医もその必要を認めなかったと答えた。葬儀には、明智も現れた。釘谷は、事件の真相を明らかにすることを、明智に重ねて依頼をした。そして、そこには大野の姿もあった。
　葬儀は終わり、遺体を墓地へ運び、埋葬が行われた。
　葬式から戻ってきた大野は、英子を相手に荒れている人見を制止した。菰田が死んですべて無駄になった、おれの目を返せという人見に対して、死んだ菰田に人見が入れ替わば問題はない、と大野は言った。菰田は荼毘に付されておらず、土葬されている。そして、墓の中から蘇生した人間の例は、いくらでもあるのだ、と。
　人見と英子、大野は菰田が埋葬された墓地に忍び込むと、菰田の墓を掘り返し始めた。程なくして、棺桶が掘り出された。大野は棺桶から引きずり出した菰田の白装束を脱がせると、人見に着せ、菰田の亡骸から奪った義眼をも人見にはめさせた。
　翌朝、登校途中の中学生が、墓の側で倒れていた菰田（人見）を発見した。
　大野の計画は、成功を収めたのだ。

第二部：エロスの園

　正月を迎えた菰田邸からは、笑い声が響いていた。当主である源三郎が生き返ってきたのだから無理もない。だが、食べ物の好みが変り、若返ったようにも見える菰田の姿を見て、釘谷は一抹の疑念を抱いていた。しかし、カラスの勘太郎が菰田の肩に止まったのを目にした一同は、カラスには自分の主人がわかっている、と一層の安心をするのだった。
　明智探偵事務所でも、ささやかな正月祝いが行われていた。そこに波越警部が正月の挨拶に訪れたのだが、御屠蘇を飲む間もなく、顔の潰れた死体が発見されたという連絡を受けることになる。
　発見された遺体は、死後大分経って腐敗の兆候を示していた。遺体からは書き置きが発見された。遺体に残されていた名刺には、人見広介の名が記されており、駆け付けてきた妻の英子は、夫の死を突然突きつけられ、慟哭してみせるのだが……。

　菰田邸の寝室では、千代子が菰田（人見）に迫っていた。昼間の宴会で、釘谷に“閨を共にしているならば、同一人物かどうかわかるはず”と言われたのを気にかけていたのだ。自分の布団を出て、布団に身を寄せる千代子の誘惑に負けそうになった菰田（人見）だが、辛うじてそれを退け、「何もわからない」と役を演じ続けた。
　翌日、記憶を取り戻してもらうために地所の案内を受けていた菰田（人見）は、秘書の本橋が吸っていたタバコを口にして上手そうに煙を吸い込んだ。菰田は嫌煙家だったが、人見はヘヴィスモーカーなのだ。それをきっかけにして、人見は菰田になりきり始めた。そして、目前にある島に目を向けた。鬼島という名前の島に目をつけた菰田（人見）は、財産の総目録を作るよう執事に命じた。

　桜が咲く季節になり、菰田（人見）の全快祝いが行われた。その席で、菰田（人見）は、大野を一族に紹介した。そして、芸術プロデューサーの大野を総責任者として、３００億円の費用をかけ、鬼島にユートピアを作るという新事業を菰田（人見）はぶち明け、それへの協力を要請した。釘谷夫妻は反対したが、菰田（人見）はそれを押し切った。３００億という資金を捻出するため、不動産の５０％と有価証券すべてを今年中に処分する、という菰田（人見）の話に一同は反対したが、菰田の母は一度生き返った人間のすることだから、と反対をいなそうとした。養子となる次郎はどうなる、という釘谷の言葉に、「養子を取るなどと言った覚えはない」と返した菰田（人見）だったが、次郎を養子にするという誓約書はどうするのか、という釘谷の指摘に菰田（人見）は動揺を隠せなかった。だが、菰田（人見）は、その意志を肯んじようとはしなかった。その様子を不安げに見る千代子と、大野。
　その晩、割烹旅館静香園で、人見は、大野と英子と席を持った。建築士や造園家、土木工事業者に潜水夫について、優秀な人員を待機させてあり、パノラマ島を飾る女性は自分の信者を送りこむことを、大野は人見に告げた。その席でタバコを吸った人見に対して、菰田邸でタバコを吸うのは止せ、と大野は言ったが、人見は上手くごまかしているから大丈夫だ、と答えた。さらに、身近にいて菰田のことに詳しい千代子を始末することを英子は言ったが、人見はそれを拒絶した。「馴れ馴れしい口を聞くな！　自分は菰田源三郎だ！」と。
　と、その場に芸者が現れた。桃太郎と名乗るその芸者は、菰田の愛人だった。突然のことに驚く人見に、大野は耳打ちをした。この愛人を試運転にしろ、と。いずれ、千代子と寝るときが来るはずであり、その前に愛人と寝て、その素性がばれるかばれないかを試せ、というのだ。人見は菰田として、桃太郎と床を共にするが、桃太郎は自分と寝ているのが菰田ではないことに気付いてしまう。それを騒ぎ立てようとしたその時、大野が現れ――翌日、桃太郎の首吊り死体が発見された。

　さらに季節が経った。蚊取り線香が薫かれた菰田邸の寝室で、千代子が満たされぬ疼きを菰田（人見）に訴えた。事業のことで頭が一杯なんだ、とごまかそうとした菰田（人見）だったが、自分を避けようとしているではないか、と菰田（人見）に言った。「愛しているなら、なぜ抱いてくださらないの？」という千代子の言葉に、菰田（人見）は答えようとするのだが、前回の“試運転”の失敗から、やはり菰田（人見）は千代子に背を向けるのだった。
　菰田（人見）を悩ませていたのは、千代子との夜のことだけではなかった。釘谷が公正証書をたてに、次郎の養子縁組を強いて来ているのだ。パノラマ島が完成するまで待ってくれ、という菰田（人見）だったが、釘谷はそれを受け入れようとはしなかった。まるで人が変わったかのようだ、と菰田（人見）に言う釘谷は、今回の件は千代子が裏で手を回しているのではないか、とまで罵倒した。
　養子の話をなんとかして菰田（人見）に飲み込ませて菰田邸から辞した釘谷だったが、次郎を乗せて車を走らせている途中、ブレーキが効かなくなってしまう。為す術もなく、車は断崖から落下、炎上した。そして、そのことを知らされた菰田の母は卒倒してしまう。さらに、こんな恐ろしいことが続けて起こるのはパノラマ島などという得体の知れない事業に手を出したことに対するご先祖様の祟りではないか、という執事は、自分の意見が聞き入れられないことを知ると、屋敷を辞してしまった。

　千代子は東京に出て、明智を呼び出した。夫は新しい事業に頭が一杯なので抜け出すことができた、という千代子は、墓から蘇ってきたあとの菰田はまるで人が違ってしまったかのように、パノラマ島制作に夢中になっている、と明智に言った。菰田が生き返って以来、なにかに取り憑かれたかのように、義妹とその次男が自動車事故で急死してしまい、義母は廃人同様に、古くからいた執事も辞めてしまうという凶事に怯えた千代子は、明智を頼りにしようとしていたのだ。自分もいずれ殺されるに違いない、という千代子は、新しく支配人になった大野という男から殺気を感じている、と明智に言った。カラスを届けに来たのをきっかけに、菰田と知合いになったらしい、という千代子の言葉に、明智はあのカラスのことを思い出していた。そして、大野という男の前歴を探って欲しい、といいう依頼を、明智は千代子から受けることに。
　明智は、カラスの線から人見工芸に辿り着いた。この人見工芸の主人であった人見広介が自殺をしたことを聞き、その一週間後、妻の英子もいなくなったことを聞いた明智は、机の下から一枚の絵を見つけ出した。そして、人見広介の顔が菰田源三郎に瓜二つであることを確かめると、明智はこの絵こそが“パノラマ島”なのだ、と察した。恐しい犯罪が進行している、と。
　明智と波越警部は、ヘリコプターで空から鬼島を調べてみたが、大工事が行われている様子は微塵もなかった。菰田夫人の妄想では、という波越警部。何百億もの資材が投入されているはずだ、と明智は言ったが、その兆候を発見することはできなかった。
　一方で、明智は文代をある宗教団体の内部調査に潜入させていた。そのことを知らされていなかった小林は驚き、安堵するが、しかしやはり心配だ、と新聞の記事を明智に示した。その記事に拠れば、各地で若い女性が連続して蒸発する事件が起きている、とのことだった。
　深夜の道路をひた走るトラックの荷台には、多くの女性が詰め込まれていた。その中には、文代の姿もまた。
　また、その頃、大野と英子は密談の末、千代子を殺すことを決めていた。パノラマ島制作にかかる費用が莫大なものになり、分け前がなくなるという怖れもあり、人見と千代子が何もかもを承知して手を結べば、危なくなるのは自分たちになるために。
　英子は手斧を手にして、シャワーを浴びている千代子に忍び寄った。間一髪英子に気付き、揉み合っているうちに千代子は頭部を痛打し気を失ってしまう。勝ち誇って手斧を振り下ろそうとした英子だが、その手から手斧を奪われ、逆に頭をかち割られてしまう。手斧を奪ったのは、大野だった。大野はその凶器を、気を失った千代子の手に持たせるのだった。
　騒ぎに気付いて、菰田（人見）が風呂場へやって来たときには、すべてが終わっていた。菰田（人見）は、死体を誰にも気づかれないよう、パノラマ島へ運べ、と大野に命じた。　
　
　小雪舞い散る季節が来た。
　菰田（人見）はご機嫌で、酒をあおっていた。いよいよパノラマ島が完成するのだ。明日には、千代子を連れていくという菰田（人見）に対して、千代子はそれを受け入れようとはしなかった。だが、パノラマ島には千代子という女王が必要なのだ、という菰田（人見）は、千代子にパノラマ島へ行くことを強い、そして、千代子を抱いた。だが、その途中、千代子は愕然として目を開いた。
　千代子は房事の後、明智探偵事務所に電話をかけたが、電話に出る者はいなかった。その様子を菰田（人見）に見とがめられた千代子だが、なんとかごまかすことができた。そんな千代子に対して、英子を殺したことを心配しているようだが、自分が愛する妻の秘密を口にするわけはない、と菰田（人見）は言った。大野の存在について心配する千代子だったが、菰田（人見）は、大野の口は自分がふさぐ、と千代子に答えた。「私はあいつが憎いんだよ」と言い募るのは、菰田ではなく、人見だった。

　翌日、菰田（人見）と大野、そして千代子は、運転手の本橋の運転するボートで鬼島へ渡った。どう見てもただの無人島だが、我々の楽園は外からは決して見えない、と菰田（人見）は豪語した。洞窟の中に隠し扉があり、菰田（人見）の操作により、エレベータが出現した。パノラマ島は、島の奥深く海底を切り開いて制作されたのだ。
　下降を続けたエレベータが止まると、その前に現れたのは魚が泳ぐ巨大な水槽だった。水面下１００ｍに広がる水族館、いやパノラマの世界。ハマチやイシダイ、フカ、エイ、ウミガメが泳ぐ水槽の次に現れたのは、水中バレエ団が妙技を魅せる水槽だった。海底の劇場に、「私の芸術は常識を超えている」と菰田（人見）は、自慢をした。
　先を進む一同の前に、地上の風景が目に入った。だがここも海底であり、野球場ほどの広さのこの場所は、人工光線で昼でも夜でも自由に時間を変えることができ、広く見えるように遠い風景は小さく描いているのだ。「私の芸術は自然を越えた」と、菰田（人見）は満足げに説明をした。人工の海、人工の滝、ワニのひしめく河、バナナ林、サボテンのある温室、鳥の楽園……これらのものが、すべて海底に作られたのだ。
　だが、それだけではなかった。洞窟の中で待っていた半裸の美女たちに、菰田（人見）は、千代子がこの島の女王であることを宣言し、エロスの園への案内を命じた。
　パノラマ島の中心、エロスの園。そこにはさまざまな人種の女性が半裸で男たちにかしづく楽園なのだ。女王の来園を歓迎して、花火が打ち上げられた。千代子も女王の衣裳に着がえさせられ、そして女王の座へついた。

　だが、海底に広がるパノラマ島で、予想だにしなかった恐怖の展開が千代子を待ち受けていた！
 

感想：

　まず、触れなければならないのは、やっぱりエロティックな部分であろうか。もう番組冒頭から胸も露なお姉さんたちが登場しまくりである。白人黒人より取り見取りである。水中ダンスや触手責め、人魚姫まで登場してくる展開に加え、今回の“美女”である叶和貴子演じる菰田千代子のシャワーシーンに入浴シーン、裸での取っ組み合いに加えてベッドシーンまであるのだから、正月特番とはいえ、２１時台からよく放映できたものだ、という気がする。事実、本作と、同じく正月特番の『天使と悪魔の美女』については、通常のドラマ再放送枠で放映されることはなく、正月の深夜に再放送されたのを覚えている。
　もっとも、こう裸のお姉さんが大量に登場するのを見ていると、なんというかエロティックな気分が吹っ飛んでしまう感もないではない。生で見ていれば別なのだろうが、見ているうちに色っぽい感覚をあまり覚えないという部分も生じてくるほど、画面の中の女性たちのほとんどが恥じらいもなく裸体を晒しまくっているのは、さすが正月特番であるとしか言い様がない。

　グロについては、やはり菰田源三郎と人見広介が左目を失ってしまうシーンだろうか。誘拐に失敗して菰田が片目を失ってしまったのにあわせて、大野と英子が人見の片目をも奪ってしまうシーンを精細に描いていて、痛々しいことこの上ない。もちろん、単にグロい展開にしたというわけではなく、片目を失ってしまったことから、これまでは計画の指揮者としてしか見ていなかった大野に対して人見が深い因縁を抱くことになり、これが番組クライマックスの悲劇に繋がっていくという伏線となっているのである。
　また、菰田の遺体を墓地から掘り返すシーンの不気味さも忘れ難いものがある。土葬された遺体が掘り返されていた、というのはこれまでの作品でもいくつかあったが、本作ではその様子の子細を描いている。掘り出した菰田の遺体が死後硬直で堅くなっているのを無理矢理に動かして白装束を脱がしていく際に、骨が折れる効果音が響くという凝りようだ。
　また、ドラマの途中でリタイアする英子の死に様も通常の描写を越えている。頭に手斧が突き刺さったシーンなど、スプラッタホラーの先取りともなっている。
　さらに、パノラマ島の“地獄の谷”の描写も忘れてはならないだろう。針地獄に放置された数々の女性の遺体の描写など、天国と地獄が同居したパノラマ島という設定を見事に活かしている。

　このようなシチュエーションだけではなく、本作はドラマとしても完成度が高い作品になっている。
　夢想家、というよりも妄想家の人見広介がパノラマ島制作という野望を実現しようとするのを利用して、自分が教祖をしている薔薇密教の大殿堂を建立しようとする大野の陰謀とが、人見と大富豪・菰田源三郎が瓜二つであることを活かして実現しようとする企てがストーリーのメインプロットとなっているわけだが、それに見え隠れする人間の欲望の描き方が見事なのだ。夫である広介を裏切って大野と手を組み、夫の目を潰すことに躊躇しない英子、当初は大野の傀儡のような存在でありながら、菰田源三郎に成りきることによって小人物だった自分のことを忘れてしまう人見というキャラクターの見せ方も見事であり、もちろん陰謀の首謀者である大野の存在も忘れられないものとなっている。
　これについては、やはり演じている役者の素晴らしさに言及しなければならないだろう。一人二役という難しい役をこなした伊東四朗は無論すごいのだが、ここは大野演じる小池朝雄に軍配が上がる感がある。初代コロンボ警部の声優ということで有名な小池朝雄だが、本作では陰謀を巡らせる悪人の役を見事に演じきっている。あのコロンボ声で死体のすり替え計画について語られれば、そりゃ思わず話に乗ってしまうだろう。また、芸者の桃太郎が、菰田が偽物であることに気付いたときに見せた凄味ある表情も、小池朝雄の本領発揮と言えよう。
　本作の“美女”である千代子を演じる叶和貴子も、体当たりの演技が絶品である。夫である菰田に人として扱われていないという薄幸の美女をよく演じており、かつて縁があった明智に見せる弱さもまたなんとも言えないものがある。しかも、それだけでは終わっていないというところが、またすごいのだ。

　ストーリーの展開もまた魅せるものがある。
　正直なところ、序盤はもたついている部分もあるのだが、人見と菰田の入替え計画が始まるところから怒濤の展開を見せ始める。誘拐計画が失敗し、菰田が片目を失ってしまったのにあわせて人見の目を潰してしまうという凄惨な展開、さらにその菰田が急死してしまい万事休すかと思わせて、奇想天外な死体となった菰田と人見との入替えの実行、そしてすべてを握った菰田がパノラマ島実現に邁進していくという展開は、観る者の目を離させない出来である。
　しかも、この大がかりな計画の影に、さらに別の犯罪が蠢いていたというのだから、サスペンスドラマとしてはもうたまらない作品として仕上がっており、さらに、シリーズの中でもこれ以上はない、という衝撃的な結末が待ち構えているのだ。本当に、さすが正月特番である、としか言い様がない。

　展開上、画面上を占めるのが人見や大野になっており、明智探偵事務所の面々の登場シーンは若干少なめになっているのは仕方のないところであるが、それでも各員の魅力の描写は怠っていない。
　特に、明智小五郎が名探偵である、という描写は隙なく行っているのは好感が持てるところだ。波越警部が捕まえたカラスが、人になれていることからペットなのではないかという推理や、神経衰弱シーンで見せた記憶力、英子の死体を見ただけで殺害犯が左利きであると看破する観察力、さらに助手の文代を薔薇密教に潜入捜査させておくという周到な計画立案能力など、名探偵としての明智小五郎の魅力が溢れたものとなっている。このような描写がされているからこそ、死線を乗り越え、悪の企みを打ち砕く名探偵・明智小五郎の存在に説得力があるのだ。

　とにかく本作は凄い。
　シリーズ最高傑作の呼び声が高いのも無理はない。
　こういう作品がＤＶＤ化されていて、いつでも観ることができるというのは、けっこう幸せな気がする。
 

見どころ：