宗方隆一郎	伊吹吾郎
宗方京子	松原智恵子
北園竜子	稲垣美穂子
川手民子	かたせ梨乃

増田順司　　宮口二郎
結城マミ　　三崎奈美
加地健太郎　　東村元行
小田草乃介　　喜田晋平
村上記代　　紺あき子
谷よしの　　土屋靖雄　
青沼三郎　　山本幸栄
羽生昭彦　　沖秀一
岡本忠幸　　篠原靖夫
加藤真琴　　山本伸二
山中明　　中村正人
下坂泰男　　小野塚千枝子
藤原美佐穂　　新垣嘉啓

STUFF

製作担当	植野晃弘（テレビ朝日）
プロデューサー	佐々木 孟
原作	江戸川 乱歩 （「悪魔の紋章」より）
脚本	宮川一郎 井上梅次
音楽	鏑木 創
撮影	加藤正幸
美術	猪俣邦弘
録音	山本忠彦
照明	石渡健蔵
編集	寺田昭光
助監督	川上裕通
装置	森 篤信
装飾	印南 昇
記録	福島マリ
美粧	ビアンコ
調音	松竹映像録音スタジオ
衣装	松竹衣装
現像	東洋現像所
製作主任	石和 薫
協力	ヨコハマ双葉家具
衣装協力	キングシープ紳士服
監督	井上梅次
製作	松竹株式会社 テレビ朝日

  　　

映像特典
９０秒予告／６０秒予告

STORY：

　その頃、川手庄太郎の家には、奇妙ないたずら電話が繰り返し行われていた。いたずら電話の主が「川手一家を皆殺しにする」と告げたことにより、波越警部を通じて明智小五郎に犯人逮捕の依頼が行われた。しかし、明智は香港へ向かわなければならないため、この仕事を請けることができず、代わりに宗方を川手民子に紹介した。
　「犯罪者側の心理を追究して、犯人像を得る」という主義の宗方は、川手家に起こっている問題を聞き出すことから始めた。民子は、一昨年から父の腹違いの妹と称する女が現れ、財産を要求していることを、宗方に説明した。その女の名は北園竜子、華道の師匠だった。宗方は、早速助手の木島に命じて、北園竜子の資料を集め始めた。

　三女の川手幸子がプールで泳いでいたとき、電話がかかってきた。周囲に怪しい男がいることから、受付にいる刑事と一緒に出て来て欲しい、という内容の電話だったが、それは偽りだった。プールから誘拐された幸子を探していた警察官は、前方を走っていたマネキンを満載したトラックから、マネキンが一つ落ちたのを目撃したが、それは幸子の変わり果てた姿だった。
　幸子の頬には奇妙な血痕が残されていた。それは、三重渦状紋と言われる極めて珍しい指紋だった。こんな奇妙な指紋をした手で幸子を殺し、裸体にした犯人に対して、波越警部は「化け物か精神異常者か」と考えたが、宗方はあるいは犯罪の天才では、と語った。トラックの運転手は、食事をしている間にマスクをした大男とハンチングをかぶった小男が、トラックの周囲をうろついていたという証言をしたことから、その二人が今回の事件の犯人と目された。

　幸子の葬式の席に現れた北園竜子に対して、次女の民子は「今度は私の番なんですね!?」と怒気を露にした。私たちを殺して財産を独り占めにしようとするのか、と言い募るにいたり、竜子も川手家の財産の半分は自分にも権利がある、と主張した。そして、この先にもっと恐ろしいことが起こる、と言って、竜子は席を立った。竜子が去ったあと、波越警部と宗方は、窓ガラスに三重渦状紋が残されたことに気づいた。墨でわざとらしく指紋を残すとは、犯人は自分たちに挑戦しているに違いない、今回の犯人はやはり天才的な頭脳の持ち主だ、と宗方は断言した。
　そして、自宅へ戻った竜子の元に、マスクをした大男が現れた。その男に、竜子は親しみ以上のものをこめて「あなた」と呼びかけた。川手家の頑なな態度から、財産が手に入りそうもないと弱音を吐く竜子に対して、男は全員殺してしまえばいい、と言う。
　竜子の家を見張っていた探偵ものが好きな長女・春子は、マスクをした大男が出てくるのを目撃した。その男の後を春子は尾行したが、逆に襲われてしまう。ストリップ劇場の看板の前に放置された春子の死体にもまた、三重渦状紋が残されていたのだった。

　香港でも今回の事件は報道されていた。明智は宗方家へ電話を入れ、京子とそのことについて話し合った。
　一方、二人の娘を失った川手家では、娘の遺品を焼いてもらうことにした。修理に出していた民子のピアノも戻り、これまでの生活に戻ろうとしていた矢先、またしても電話がかかってきた。次は民子の番だ、言ったとおり冗談や嫌がらせではない、と電話の主は告げた。そして、今夜民子を殺す、とも。屋敷の周囲は波越警部の手配で刑事たちが目を光らせ、屋敷の中では波越警部と宗方、そして香港の明智からの指示で、助手の文代が民子を護衛することになった。
　庄太郎と民子は安心して眠ることにしたのだが、しかしピアノの中からハンチングをかぶった小男が現れた！
　朝になり、二人の寝室をのぞき込んだ宗方と文代は、民子が消えていることに気づいた。クロロホルムで庄太郎は眠らされていたために、民子がどうされたのかを知らなかった。民子と犯人とが見張っていたはずの寝室から消えた理由、文代は、ドア続きでつながっていた隣室に置かれていた遺品を収めた箱の中に民子と犯人がいたに違いない、と推理し、間一髪、民子は焼かれる寸前に救出された。また、犯人が潜んでいたピアノから、やはり三重渦状紋が発見された。とすれば、小男が三重渦状紋の持ち主ということになり、それは北園竜子に違いない、と波越警部の嗅覚は判断した。宗方の助手・木島の調査でも、竜子の家に最近大男が出入りしているということから、波越警部は竜子の家を調査することにした。

　竜子の家に向かった波越警部と文代は、留守宅の中を探っている怪しい影を見つけたが、それは明智小五郎だった。文代から毎日報告を受けていた明智もまた、竜子のことを探る必要があると考えていたのだ。波越警部は、言葉巧みに戻ってきた竜子から指紋を採取したが、三重渦状紋は検出されなかった。だが、竜子の人差し指には水絆創膏が塗られていた。その下から現れた指紋は……。
　香港土産を渡すために宗方家を訪れた明智に、京子は宗方の研究を嫌悪していることを語った。そして、自分の身体が不自由であるために、夫婦の関係が一度もない、とも。長くない命であるならば、一度は思い切り男の胸に飛び込んでみたい、と語る京子の激情に、明智は言葉を失い、さらに魅せられてしまうのだった。
　
　誘拐され、体調を崩していた民子の退院が決定したことから、宗方と波越警部は相談の上、庄太郎と民子を一時安全な場所へ隠すことになった。その場所は、明智にも教えられず、ただ伊豆のある場所、とだけ宗方は明智に告げた。宗方がそこへ二人を隠し、安全を確認した上で捜査陣に連絡するという。計画は実行に移され、誰にも追跡されることなく、庄太郎と民子は宗方が懇意にしている寺へ移動した。犯人がどんな狡猾な奴でも、ここは発見されない、と宗方は豪語した。
　しかし、すでにそこにはハンチングの小男が迫っていた。その夜、すぐに二人は襲われ、自分たちの墓を見せられ、山本商会の勤め人だった庄太郎の父庄兵衛が、山本商会の娘婿となった同僚を脅し、金を奪うと夫婦共々殺害した、という寸劇の形で、三十年前に起こった出来事を知らされた。そして、息子とその妹に、母は川手庄兵衛への復讐を託したのだった。「庄兵衛は捕まったが病気で死んだ。だから、その罪はおまえが償え」と、マスク姿の大男は正太郎に告げると、彼を棺桶に生きたまま封じ込めてしまう。その際に、庄太郎が見た犯人の顔とは……？

　庄太郎と民子が行方不明になったことを宗方から報らされた明智と波越警部は、急いで現場へ向かった。そして、劇団員が焼き残した脚本から、事件の真相を知った。劇団員から事情を聴取したが、これまで以上のことはわからないかのように思われたが、劇団員の一人が小男とすれ違ったとき香水の匂いがした、と証言したことから、小男ではなく女なのでは、ということから、北園竜子の嫌疑がいっそう濃くなった。ところが、切断された人差し指が発見され、それが三重渦状紋だったのだ。明智は、その指は北園竜子のものに違いない、と指摘した。指を切り落としてしまったため出頭できない、と竜子が連絡してきたことから、波越警部は彼女の逮捕を決断した。
　しかし、一足遅く、北園竜子は死んでいた。そして、“復讐は完成した”という内容の遺書を残したマスク姿の大男の墜死体も発見され、事件は解決したものと思われた。だが、明智小五郎はこの事件はまだ終わっていない、と主張した。民子と庄太郎の遺体を世間に晒してこそ復讐が完成するはずなのに、二人の生死が明らかになっていないことから、この遺書は矛盾している、と明智は指摘したのだ。庄太郎の死体は、あの寺の納骨堂にあるのでは、と明智と宗方の意見は一致した。果たして納骨堂に棺は置かれていたが、しかし庄太郎の死体どころか、その棺には何も残されていなかった。
　そして、庄太郎の生存が確認された。東京行の列車に乗っていたところを警察に保護されたのだ。意識不明だったが、明日には意識が戻るということから、庄太郎が犯人の顔を目撃していることを捜査陣は期待した。その夜、やはりマスクをつけた大男が現れ、病室で眠る庄太郎を殺そうとした。しかし、それは明智の仕掛けた罠だった。
　
　大男の車のトランクに潜んだ文代が行き着いた先は、果たして大男の隠れ家なのか？
　そして、大男と小男の正体は……？

感想：

　加えて、波越警部のバイプレーヤーとしての活躍は、これが出演二作目とは思えないものがある。三重渦状紋という指紋を持っているのは北園竜子に違いない、とぼけたふりをして当たってみるか、というところは波越警部の嗅覚の鋭さを描いていて、やはり単なる昼行灯ではないところを感じさせてくれる。それ以外にも、細かいところで活躍するシーンもあって、波越警部の存在感はやはり本作の中でかなりのウェイトを占めているだろう。荒井注氏のユーモラスな演技も捨てがたい。
　やはり、本作で《美女シリーズ》のスタイルが安定してきた、というのは間違いのないことだろう。

見どころ：