STUFF

プロデューサー	備前島文夫（テレビ朝日） 佐々木孟
原作	江戸川乱歩
脚本	ジェームス三木 山下六合雄
音楽	鏑木　創
撮影	坂本典隆
美術	重田重盛
照明	八亀　実
録音	山本忠彦
編集	加川武志
記録	吉田純子
装置	石渡敬之助
装飾	宮崎琢郎
美粧	相馬優子
スチール	樋口　通
調音	松竹映像録音スタジオ
衣裳	松竹衣裳
現像	東洋現像所
助監督	梶尾政男
進行	平川　秀
プロデューサー補	関根　康
製作主任	早川喜康
衣裳協力	（株）ロコ・アトリエ・タカダ 毛皮（株）ロティニー 鈴乃屋 洋服の新紳 ＦＬＡＮＤＲＥ
協力	全日空 逗子マリーナ（株） （株）神奈川大井射撃場
監督	貞永方久
製作	テレビ朝日 松竹株式会社

映像特典
９０秒予告／１５秒予告／ハイライト

STORY：

これがおれの恋だ……椅子の中の恋……決してこの世のものとは言えない、悪魔の恋だ……

　退院した佳子を祝いに、高杉孝太郎と末の妹の夕子が北見邸を訪れていた。夕子は、ここで佳子の仕事を手伝うことが決まり、喜んでいた。その夕子は、書斎に置かれていた大きな椅子に目を向けた。日本インテリアに勤める黒川純一という椅子作りの名人に新しく作ってもらったその椅子に、佳子は夕子に掛けてみることを勧めた。
　明智は野呂から話を聞いていた。高杉は戦後の成り上がりだから、名門とか家柄とかに弱く、そのために著名な推理作家である北見佳子を長男の嫁に迎えようとしたのだ、と野呂は語った。そして、そのことを快く思っていない者も高杉の一族にいることから、その辺りが事件の鍵なのではないか、とも。
　北見邸で原稿の清書の仕事をしていた夕子は、根を詰めて疲れた体を、あの椅子に預けて休めようとした。そして、明智に送られ、テレビでの対談を終えた佳子が屋敷に戻って目にしたものは、既に事切れた夕子の姿だった。波越警部や明智が駆け付け、早速捜査が開始されたが、この夜何者も北見家を訪れてはいないという。また凶器は長い針で背中を一突きにされたにも関わらず悲鳴も聞こえず、争った痕跡も残っていないことから、明智は犯人が予めこの室内にいたのではないか、と考えた。そして、夕子がかけていた椅子に目を向けた。その椅子には血痕が残っており、針が突き出された跡が残されていた。明智が調べてみると、その椅子の中は空洞で、佳子が婚約を発表した日の新聞が残されていた。
　秘書の根岸から椅子の製造元を聞いた明智と波越警部は、日本インテリアへと向かった。だが、椅子を作った黒川は数日前から行方がわからない、と社長の田村は二人に言った。黒川は変わり者で、出身地である山形の方にも肉親はいないらしい。明智は社長に頼んで、社内に住み込んでいた黒川の部屋を見せてもらうことにした。北見佳子の写真が一面に貼られた黒川の部屋を捜索していた明智は、黒川の手記を発見した。その手記には、北見佳子に椅子作りを頼まれた黒川が、その椅子の内部を空洞にして、自分が入り込めるように作ったことが赤裸々に記されていた。椅子になって、彼女を思いきり抱き締めるのだ、と。
　その手記を読んだ佳子は、それをでたらめだと一蹴したが、椅子の中に何者かが潜んでいたことについては確実な証拠が残されていた。それを指摘された佳子は、いつも誰かに見つめられていたような気がしたことがあると話し、さらに黒川に襲われかけたことがあることも明智と波越警部に話した。黒川が本懐を遂げそうになったその時、佳子が漏らした「臭い」という言葉にショックを受け、何もできずにその場を去ったということを聞いた波越警部は、椅子になった黒川がそれに飽き足らず佳子を襲おうとし、自分を貶める言葉を口にした佳子に対して逆恨みをしたに違いない、と考えた。
　明智と波越警部は、日本インテリアの社長から黒川の詳しい話をさらに聞き込んだ。それによれば、北見佳子の大ファンである黒川が一人であの椅子を仕上げ、他の誰にも触れさせなかったという。
　夕子の葬儀にやってきた佳子に対して、高杉春子は高杉家に不幸をもたらす、として追い返してしまう。葬儀の席から彼女を送った明智は、椅子のことに気付かなかった失意の佳子を励ますとともに、高杉孝太郎と結婚することを望んでいるのか？と訊いた。彼を愛しているのか、という明智の言葉に、佳子はうなずいた。
　北見邸では、秘書の根岸が佳子の原稿を読んでいた。『ダイヤモンドは禁断の実』というタイトルの原稿を前に、根岸は傑作でベストセラー間違いなし、と佳子に言った。自分のマンションに戻った根岸だったが、そのマンションの前には高杉孝太郎の車が停められていた。マンションに入る根岸から身を隠す孝太郎。根岸の部屋の前には明智が待っていた。椅子を発注したことについてさらに聞き込もうとした明智だったが、根岸に拒まれてしまった。そして、根岸は、シャワーを浴びている最中、何者かに刺し殺されてしまう。
　捜査を行っていた波越警部は、事件当時不審な車が停まっていたという聞き込みを元に、高杉孝太郎から事情聴取を行った。あのマンションに行った理由について、孝太郎は明確な答えを返すことができず、拘留されてしまう。佳子は明智に対して、孝太郎が犯人ではないことを告げ、今回の事件の真犯人を捜すことを依頼した。それに合わせて、佳子は今住んでいる邸宅を売り、南青山のマンションに引っ越すため、その手伝いをも明智探偵事務所に依頼したのだった。一方、佳子は根岸咲子の殺人について孝太郎のアリバイを証言するため捜査本部に足を運んだ。その夜、孝太郎は自分と過ごしていたので犯人ではあり得ない、と。だが、そこには朝野ユリという女性がいた。彼女は、孝太郎は自分と一緒に朝まで過ごしていた、と波越警部に、そして佳子に言うのだった。

　明智は、高杉大作が経営するジュエリーイブ高杉を訪れ、春子から話を聞いていた。春子に拠れば、ダイヤモンドの鑑定や取引の取材のためやってきたのをきっかけに、高杉孝太郎と北見佳子は付き合い始めたのだという。春子は、佳子が孝太郎を愛しているとは思えない、と言葉を続けた。「あの人が好きなのはダイヤモンドだけなんです」、と。さらに、明智は、調査のため松本へ戻った北見家の元お手伝いタミの元へも足を運んだ。
　佳子が引っ越したメゾン南青山に、花束を持った孝太郎が訪れてきた。それを見送る野呂。引っ越しの最中やってきた孝太郎は、浮気がばれたことについて佳子に謝りに来たのだった。佳子は孝太郎の謝罪を受け入れた。また、日本インテリアの社長・田村も北見の部屋を訪れてきた。これは、今回社員の黒川の不祥事を謝るためだった。謝罪が受け入れられ、調子に乗った孝太郎はそれくらいでイメージダウンが避けられるなら安いものだ、と軽口を叩いた。また、社長の田村が抜け目ない男で、高杉家の箱根の別荘の改築の仕事を手に入れたことも口にした。そんな高杉がソファに腰をかけていたとき、銃弾が彼の胸を射抜いた。すぐさま田村が犯人を追いかけるため、部屋を飛び出し、小林は警察に通報した。狙撃に使用された銃は、向いのビルの給水塔の下から発見された。発見した田村に拠れば、周囲には誰も居らず、誰が撃ったかはわからないという。狙撃に使用された銃が土田の物と判明し、波越警部は土田を重要参考人として捜査本部へ連行した。だが、銃は盗まれたものだ、犯人は椅子職人黒川純一だ、と土田は言い張った。

　だが、丹沢山中でハイキングをしていた男女が、黒川の遺体を発見したことにより、事件は混迷の度を深めて行く。果たして、黒川は自害したのか？　
　非難の矢面に立たされ、明智探偵事務所に愚痴をこぼしに来た波越警部に対して、あの死体が黒川とは限らない、と言った明智は、波越警部と文代、小林に対して、『欲』という字を漢字で書いて欲しい、と頼んだ。文代と小林が“欲”と書いたのに対して、波越警部は“慾”と書いた。それを見て、明智は今回の事件の真相を解き明かしたことを確信したのだった。

　連続殺人を起こした真犯人、その目的は!?
　人間椅子に絡まる怪奇とは!?
　そして、“慾”という字に秘められた謎、明智はそこに何を見出したのか!?

感想：

　また、登場人物の使い方にもう少し色があっても良かったかな、という気はする。特に、レオナルド熊演じる黒川純一という人物が、あまりクローズアップされなかったのは、いかにももったいない。人間が椅子になるという発想をした黒川純一のエキセントリックさをもっと前面に出せば、ドラマ全体を一本貫く柱ができたのではないだろうか。物語の展開上、黒川純一を途中退場させなければならなかったというのはわかるが、そのために人間椅子の怪奇性・猟奇性というものが失われてしまっているのである。これは実にもったいない。
　ただ、レギュラー陣の描き方については、もう手慣れたものがあって、これはなかなか面白い。特に、北見佳子が最初に襲われたとき、明智小五郎と一緒にいたにも関わらず、そのアリバイが疑われてしまったり、記者会見をやって非難の矢面に立たされて愚痴をこぼしまくる波越警部の描写は、いかにもなものではあるにしても、実に魅惑的である。この波越警部のユーモラスなシーンが、人間椅子という怪奇性を中和するような方向になればもっとよかったのではないかと思う。平たく言えば、せっかくの『人間椅子』なんだから、もっと上手く使えよな、ということになって、最初の感想に戻ってしまうわけだが。
　明智小五郎については、探偵としての活躍が地味に描かれているのは好感の持てるところである。事件の手がかりを求めて松本まで足を運んだり、と足まめなところを見せていたりするし、黒川の手記に書かれていた「慾」という一言を元に、事件を解決してしまうところなどは、やはり名探偵・明智小五郎と言わざるを得ない。ただ、今回は明智探偵事務所の面々がそれほど活躍しなかったのは少々残念なところである。明智が頭を働かせ、文代や小林が証拠を集めてくる、という展開がなかったのは、もう一つであろう。やはり、明智探偵事務所なのだから、事務所の人々の活躍シーンも欲しいところだ。

　また最初の感想に戻ってしまうが、せっかくの『人間椅子』という題材なのだから、上手く料理して欲しかったな、というのが本作を見ての感想になってしまうのだった。

見どころ：