『江戸川乱歩の白髪鬼 宝石の美女』

初放映日:1979/1/6
放映枠:90分


CAST


明智小五郎
天知 茂
文代
五十嵐めぐみ
小林少年
柏原 貴
波越警部
荒井 注
大牟田ルリ子
金沢 碧
川村
小坂一也
住田女医
奈美悦子
西岡
睦 五郎
田村刑事
北町嘉郎
豊子
田島はるか
不動産屋
岡部正純
浮浪者
小田草之助
山本幸栄
羽生昭彦
山崎純資
沖 秀一
詫摩繁春
工藤和彦
山本伸二
加藤真琴
篠原靖夫
鈴木章司
園田健二
戸谷光輝


里見
田村高廣

STUFF


製作担当
宇都宮恭三
プロデューサー
佐々木孟
原作
江戸川 乱歩
(「白髪鬼」より)
脚本
宮川一郎
音楽
鏑木 創
撮影
小杉正雄
美術
重田重盛
録音
鈴木正男
照明
石渡健蔵
編集
鶴田益一
助監督
佐光 曠
装置
谷津勝利
装飾
鈴木章司
記録
桜木光子
進行
田沢連二
美粧
ビアンコ
調音
松竹映像録音スタジオ
現像
東洋現像所
製作主任
吉岡博史
プロデューサー補
徳重里司
衣裳協力
キングシープ紳士服
オリエンタル(株)
監督
井上梅次
製作
松竹株式会社
テレビ朝日

映像特典
90秒予告/60秒予告


STORY:

 この白髪鬼の恐怖の物語は、ある囚人の脱獄から始まった――。

 宝石強盗犯の西岡三郎は、手下を犠牲にして脱獄に成功した。白髪の鬘で変装した西岡は、いずこかへ隠した宝石を求め、夜の闇の中へ消えてしまった。
 その宝石は、実は海辺にある大牟田家代々の墓へ隠されていたのだった。西岡は、10年に渡って盗んできた宝石を手にしようと墓を荒らすが、既に何者かが宝石を奪ってしまっていた。
 砂浦警察署の寒川警部は、西岡が逃走に使用した車が港に沈められていたのが発見され、しかも、大牟田家の若妻ルリ子の入浴を白髪の男が覗いていたことが通報されたことで、西岡が近辺に潜伏しているものとして、波越警部に連絡を取った。波越警部は、早速明智を伴って、大牟田邸へ向かった。西岡が大牟田邸に現れた理由は、食料を漁りに来たのか、それとも……?

 当主・利清の一周忌が近付いてたその大牟田邸では、未亡人のルリ子とその妹豊子、そして画家の川村という男が不穏な会話を交わしていた。波越警部一行らを迎え入れたルリ子は、西岡の写真を見せられたが、昨夜見た男は逆立った白髪をした、まるで鬼のような男だと語った。なぜ大牟田邸に西岡らしき男が現れたのか、波越警部と明智がルリ子に聞き込んでいたとき、不動産屋がやってきた。相続税対策に売りに出していた別荘の買い手が決まった、ということで、別荘を買った男・里見を連れてきたのだった。その里見という男は、白髪と顔に醜い傷跡がある以外、川村が描いた前当主の大牟田の肖像画に瓜二つだった。実は、昨夜ルリ子の風呂を覗いたのは里見だったのだ。シャワーを浴びたあと散歩に出て大牟田邸を見て入り込んでしまったとのことから、西岡と大牟田邸とは何の関係もないことになり、波越警部らは追い出されてしまった。
 しかし、大牟田邸の人々は、里見という男が現れたことと、明智の存在に不安を抱いた。当主が一年前に亡くなったことに、何か隠された秘密があるようなのだが……。

 里見は、昨夜の失態を改めて謝るということで、宿泊しているホテルにルリ子を招いた。別荘の改築の説明を行う里見に対して、ルリ子は言い知れぬ不安を感じていた。タバコの出し方が、亡き夫にそっくりだったのだ。だが、里見は白髪と傷、声が違うことからルリ子の不安を一笑した。そして、里見は高価な指輪をルリ子にプレゼントしたのだった。
 警察は西岡の捜索を続け、山狩りまで行ったが、未だに発見できなかった。その西岡が、里見の部屋にやってきた。手紙で西岡を呼び寄せた里見は、西岡が隠していた宝石を横取りしたのが自分であることを告げた。そして、半分は香港で換金してしまったが、10億は下らない残り半分は返し、しかも海外逃亡の幇助を西岡に持ちかけた。
 その代わりに、自分の仕事を手伝って欲しい、とも――。

 里見にもらった指輪に夢中なルリ子を川村は詰るが、ルリ子は相手にしなかった。遺産が思ったより少なく、川村の絵も売れないことから、強欲なルリ子は里見を新たな金蔓にしようと考えていた。川村が絵を描いていた時、ルリ子を伴って現れた里見だったが、鎖をくるくる回すその癖を見て、ルリ子と川村は驚愕した。その癖は、亡き大牟田の癖でもあったのだ。亡き主人と癖が同じということは偶然ではない、と語った里見は、ルリ子に結婚を申し込んだ。
 その夜、川村と豊子は、ルリ子の心変わりについて話し合っていた。その時、停電が起こった。寝室で休んでいたルリ子は、亡くなったはずの大牟田のうめき声で目を覚ました。苦悶の言葉を聞き、怯えるルリ子の前に、白髪をした大牟田が現れたのだ。悲鳴を聞いた川村と豊子はあわてて寝室に向かったが、すでに大牟田の姿は消えていた。ルリ子の気の迷い、と思っていた豊子だったが、居間にかけられた大牟田の肖像画に白墨で白髪が描き足されていたのを目の当たりにし、さらに里見の姿を見かけ、写真を撮るため彼を追いかけた。ホテルに電話をした川村だったが、しかし里見は部屋にいた。では、豊子が追いかけている男は何者なのか? その豊子は男を追い詰め写真を撮ったが、白髪の男に逆襲されてしまう。
 住田女医の回診を受けたルリ子は、昨夜現れたのは確かに亡き夫だったことを川村に語った。その川村は、間違いなく大牟田は死んだのだと――自分たちが殺したのだ、とルリ子に言った。ルリ子と川村は、大牟田が存命中から関係があり、大牟田を崖から突き落としたのだ。そして、女医の住田は、不審死であることを隠して大牟田の死亡診断書を書く代わりに、ルリ子から金をもらったのだった。
 その時、警察から連絡が入った。豊子が殺されたのだ。全裸の(ただしパンティははいていた)彼女の死体は、木から逆吊りにされた惨い状態で発見された。
 事件について聞き込んだ波越警部は、里見のアリバイが確かな以上、西岡が豊子を殺したに違いないと考えたが、その場合なぜ西岡が豊子を殺したのかがわからずに悩んでいた。一方、明智はこの事件の影になにか別の事件があるのではないか、と口にした。肖像画の白髪の落書きに気づいた明智は、この事件に何を見出したのか?
 豊子の死体の側には彼女のカメラが残されていた。残されたフィルムの現像が行われ、ぶれてはいるが白髪の男が写っていた。小林少年が現場に残されていた白髪を発見したことにより、この白髪が鬘の毛ならば、この白髪の男は西岡ということになるのだが……。
 豊子が亡くなったことを聞いて聴聞に来た里見は、再度ルリ子に求婚を申し出た。醜い傷の代わりに、有り余る財があり、ルリ子を愛している、と。里見は、ルリ子を奪う形になった川村に対しても、充分な償いをするとして、パリで買ってきた品を約束の証として彼に渡して欲しい、とルリ子に渡した。
 大牟田家の墓所を調べていた明智は、そこで遭った里見に対して、今回の殺人の影に別の事件があり、それは西岡とは関わりがないのでは、と考えていたことを語った。その手がかりは、大牟田の肖像画になされた逆立った白髪の落書きなのではないか、と。疑われていることを聞かされた里見は、自分の髪を明智に渡した。
 鑑識の結果、大牟田家の庭に残されていたのは鬘の毛であり、里見の白髪は本物の白髪であることが確認され、アリバイのこともあって、今回の事件に里見は関係がないようだった。

 ルリ子は、里見と結婚するつもりになったことを川村に告げた。川村は無論納得しなかったが、ルリ子は里見が彼の一生を保証すると言ったと語り、預かっていた品を川村に渡した。だが、それは以前大牟田も使用していた蜂を形どったネクタイピンだった。間違いなく、大牟田の棺に納めた品のはずである。ルリ子と川村は、大牟田が生き返り、里見として帰ってきたのでは、と怯えたが、女医の住田は偶然であると言い張った。川村もやがてその考えに同意したのだが……。
 今度は住田の死体が発見された。死因は絞殺であり、死体の発見現場にやはり白髪が残されていた。
 だが、明智はこの現場を後にして、里見のホテルに向かった。里見の昨夜のアリバイについてフロントに聞いた明智だったが、夜の十時と十一時、十二時にルームサービスを頼んでいるのは間違いないことであった。だが、最近の里見は、食堂での食事以外に、ルームサービスでサンドウィッチを頼むことが多くなったことを聞いた明智の目が光った。

 そんな時、西岡が造船所で食料を盗んでいるところを目撃された。波越警部らは目撃者の証言から、西岡が潜んでいた洞窟へと向かった。武装警官を伴って西岡を逮捕しようとした波越警部だったが、そこで彼らが目撃したのは、観念して首を吊っていた西岡の姿だった。事件は解決したものとして、戒名も剥がされ、波越警部は砂浦を後にしようとしたが、明智は一人大牟田家の墓所の前に佇んでいた。そこで遭った里見に事件が終わって東京へ帰ることを告げたが、事件の謎は解決していない、と明智は言った。大牟田の死亡診断書を書いた住田女医が殺されたことから、明智は大牟田の死には何かがあり、その解明の鍵はこの墓所の中にあるのではないか、と考えていたのだ。

 里見は、別荘の改築が終了したことをルリ子に話すと、その地下室にはすでに数々の名画が運び込まれていることを示すカタログを見せた。結婚の暁には、この名画が全てルリ子のものになる、とも。ルリ子は、川村が一生困ることのない保証を里見に求めた。里見は、これらの絵画を川村に譲ろうと言い出したが、ルリ子はそれを認めようとはしなかった。そして、そんな二人の様子を川村は秘かにうかがっていた。
 その夜、川村は里見の別荘を訪れた。二人の話を聞いていた川村は、ルリ子から手を引く代わりに地下室にある絵画を全て寄越すよう言いに来たのだ。里見は、川村に絵を譲ることを承諾し、地下室へ彼を案内した。だが、その地下室で川村を待っていたのは、数々の名画ではなく、死の恐怖だった!

 宝石強盗・西岡の逃走に隠された事件とは、いったい何か!?
 謎の金満家、里見とはいったい何者なのか!?
 そして、手にした一冊の本が、全ての謎を解く鍵だったことを明智が知ったとき、最後の惨劇の幕が上がろうとしていた……!!

感想:

 本作は、もともとは探偵役の出ない作品『白髪鬼』を原作にしたドラマである。そのため、探偵である明智と事件との間に距離が開いている感がある。明智小五郎や波越警部は、脱獄した宝石強盗・西岡を追うために砂浦にやってきたわけであり、彼の地で一年前に起こった事故に見せかけた殺人について、いきなり捜査をするわけにはいかないためである。その分、真犯人が起こした事件を西岡が起こしたものと見せかけて、明智が事件の真相に迫るという形で上手くブリッジができてはいるのだが、その分明智は西岡の追跡に手を抜いているんでないかい?という印象もなくはない。
 また、もともとは、白髪鬼の手記による叙述スタイルを取られていた作品であることから、どうしてもドラマ中の描写を続けていくうちに真犯人が割れてしまう、という欠点も見受けられる。一応、ここでは直接的にネタを割らないよう書いているが、普通にあらすじを読んでいけば真犯人が誰であるか、すぐにわかってしまうだろう。この辺り、ミステリとしてはやはり上手く行っていないわけである。無論、真犯人の復讐劇として見れば、筋の通ったドラマではあるのだが、やはり明智小五郎の活躍する《美女》シリーズの視聴者としては、明智の推理によって明かされた意外な結末というのが見たいのだ。あるいは、明智探偵事務所の面々が活躍するシーンが見たいのであり、はたまた波越警部のしょーもないが憎めないギャグを見たいのだ。
 本作では、そういった部分の描写があまりない。それが物足りなさを感じさせるのだろう。

 しかし、前述のように、事件と明智小五郎が分離しているという構造的な欠陥があるにはあるのだが、ドラマとしての出来は決して悪いものではない。冒頭の脱獄劇から始まる部分は、このシリーズらしくスリリングな仕上がりになっているし、ときおり姿を見せる不気味な白髪鬼も、観ているとって刺激的だ。また、被害者ではあるが、この事件の根源でもあるルリ子の強欲で浅ましい姿の描写は、ラストシーンの見せ方を考えてのものでもあり、その強欲さが事件を引き起こしたのだ、と充分に納得できるものとなっている。
 また、上記では、明智探偵達の活躍シーンがあまりないと書いたが、わずかな手がかりをも見逃さない明智という描写もあるにはあるし、波越警部のキレるんだかキレないんだかわからない捜査シーンもあるにはあるので、まったく不満というわけではない(ただ、本作では文代の登場シーンは本当に少ないので、文代ファンは不満に思ってもしかたないだろう)。女の人の裸のシーンも(死体のシーンが多いけど(^^;)たくさん出てくる。
 そういう意味では、確かにツボは外していないのだが、やはりドラマとしての出来は悪くないが、《美女》シリーズの一編としてはどうかな?というのが、本作に対する評価ということになるだろう。

見どころ:

  • 西岡の逮捕

  •  明智小五郎が捜査に参加し、逮捕のきっかけをつかんだ。
     そのため、当初小林少年や波越警部は、西岡が明智に復讐を企んでいるのではないか、と考えた
     
  • 波越警部は捜査第1課付きの模様

  •  波越警部の机には、麗々しく「捜査1課」の立て板がある。
     課長ということはないだろうが(課長だったら警部ではないだろう)、やはり何人もの部下を率いて捜査を行うだけのことはある地位にいることは間違いない
     
  • 里見の宿泊先

  •  ホテルの410号室。
     本作はタイアップがなかったためか、ホテル名は不詳。里見は、西岡を呼びつける手紙で『ホテルの410号室に来い』という文意を認めていたのだが、西岡はどうやってホテルを特定したのだろう?
     
  • 里見がルリ子に譲ろうとした絵画の作者

  •  ピカソ、セザンヌ、ルノアール、モジリアニ、シャガール、等々。
     なお、里見が持っていると称した宝石の価値は、これらの絵画の3倍に渡る、ということだったのだが……
     
  • 波越警部の車

  •  トヨタ・クラウン(色は黒)(明智くん様ご指摘)
     


    下のロゴにマウスポインタを乗せると、画像代替の文字列として、今回の明智先生の変装がネタばれされます。
    今回の明智先生は、宝石強盗の脱獄犯・西岡に化けてます
     
     
     

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