マイルズ・センターの妻ドロシーとニッキーは友人同士であり、偶然のことから再会した。ドロシーは、ニッキーに対して、今不倫をしていることを語る。マイルズの弟デイヴィッドと道ならぬ恋をしているのだ、とドロシーはニッキーに告白した。その時偶然？にもその場にやってきたマイルズ・センターをかすめて、屋根に飾られていたガーゴイルの像が落ちてきた。
ニッキーはエラリイに相談するが、エラリイは取り合おうとしない。しかし、マイルズ自身から弟と妻の不義の話を聞かされたエラリイは、ガーゴイル像が落ちてきた現場をデイヴィッドに知られないよう、深夜にマイルズ邸を訪れることにした。約束の時間よりも少々早く到着したエラリイとニッキーは、マイルズの秘書ハートの出迎えを受ける。三人がマイルズの居室へ向かって階段を昇っているとき、銃声が轟いた。そして、居室で血を流しているマイルズを見つけたのだ！
センター夫人は自分が２２口径のリヴォルバーの引き金を引いたと証言するが、現場には３８口径の薬莢が落ちていたため、それは認められなかった。エラリイは真犯人を捜すべく邸内を探索すると、デイヴィッドのアトリエがある屋敷の屋上から煙が上がっているのが目に入った。燃えているものを確かめたエラリイは、前日落ちてきたガーゴイル像を探し始める。それが今回の事件を解く鍵があるというのだが……？
７月の話ではあるが、特定の主題はない。強いて言えば“暑さ”ということであろうか。
トリックについては大したことはない。その当時にしても、このようなトリックはあんまりではなかろうか。また、プロットも破綻気味のところがある。これまで舞台にほとんど上がっていなかった＊＊が真犯人でした、というのはあんまりではなかろうか？ この筋だと、決して悪人とは言えないはずの＊＊＊＊は実は悪人でした、という話になってしまいかねない。また、犯人と目された人物が消えてしまった謎についても、以前の作品の焼き直しである。焼き直しでもレンジでチンでも美味しければそれで良いのだが、別にそれを使わなければならない、という話ではないので、あまり美味しくないのである。
７月と言えば、かの有名な独立記念日（７月４日）があるのだから、それをネタにすればよかったのではなかろうか。
真にむずかしい事件は、単純な事件の場合なんだよ(P.46)
探検家クラブの会合で、エラリイはエリック・エリックスンの所有するエリックスン島に埋められた海賊キッドの宝物の伝説の噂を耳にする。後日、エリックスン自身がエラリイの元を訪れたのだが、エリックスンの目的は宝捜しではなく、姪のインガの亭主ホッブス・ワトキンスとその父ワトキンス大佐が彼と姪を殺して財産を乗っ取ろうとしているのではないか、ということに関しての相談だった。エラリイはニッキーを伴って、宝捜しのためという名目で、エリックスン島に向かった。
エラリイは、島に残されていた伝説から、キッドの部屋と称する燈の一室から“針の目”を通して財宝を探し出すことに成功する。翌日早朝にエラリイとニッキーが財宝を掘り出していると、二発の銃声が響き渡った！ かけつけたエラリイがキッドの部屋で目にしたのは、エリックスンの射殺死体だった！
エリックスンは、やはりワトキンス父子に殺されたのだろうか？ そして、二発響いた銃声の謎は!? 海賊キッドの財宝にまつわる謎を、エラリイの推理は見事に解き明かす！
８月の話であるが、特定の主題はない。強いて言えば“夏休みといえば、旅行だ！ 冒険だ！”ということであろうか（って、あろうか、か？ これって）。
二発の銃声の謎を解き明かすことについては、エラリイの推理はけっこう冴えている。が、宝物の正体については、果たしてそんなんでいいのであろうか？という疑問を拭いきることができなかったりする。
また、真犯人の意図も不明である。エラリイの説明そのものは理路整然としているのだが、別にエリックスンを殺さなくてもよかったような……だからこそ犯罪が露呈した、と言えるにしても。
エラリイの元に、バーロウ大学学長の手紙が届いた。その内容は、９月の学期始めになれば必ず戻ってくるはずのきちょうめんな性格をしているチップ教授が未だに学校に姿を見せないので、捜索をお願いしたい、という依頼だった。エラリイは即刻バーロウに赴き、調査を開始した。その結果、チップ教授は夏季休暇が始まった直後に行方がわからなくなったことが判明した。
エラリイは、チップ教授が夏季休暇を過ごすはずだった小屋を捜索し、チップ教授のトランクに生石灰が詰められていたのを発見する。その時、ニッキーがチップ教授の白骨死体を偶然に発見した！ さらに小屋の探索を進めたエラリイは、戸棚の奥から『３つのＲの謎』というタイトルの推理小説の原稿を見つけ出した。それはチップ教授が書いていたという小説であり、しかも、今回の事件はその小説の筋書き通りの展開を見せていたのだ！
『３つのＲの謎』の筋書き通りに犯行を進めた犯人の意図はいったいなんなのか？ 謎を解き明かしたエラリイが示す衝撃の真実とは！
９月の話であるが、特定の主題はない。強いて言えば、“９月と言えば新学期！”ということであろうか（……）。
話の筋そのものは、アメリカ人のプラクティカルジョーク＆セールスプロモーションのセンスは最低、という一言で終わってしまう。あと付け加えるならば、クイーンもたまにはセルフパロディをしたかったんだね、という作品である(^^;)。
友人アンによるハロウィンパーティに招かれたエラリイとニッキーは、黒猫の格好をしてパーティ会場を訪れた。ホールは真っ暗闇で、障害物が乱雑に散らかされており、エラリイとニッキーは苦労してそこを通り抜けた。パーティの主催者アンはジョン・クロンビーという男と結婚していたのだが、この男はどうしようもない女好きで、女友達のみならず妹のルーシイにまで手を出そうとしているらしく、アンがかなり苦労しているのをニッキーは見て取った。
パーティも大詰めを迎え、かの名探偵エラリイが直々に犯人当てを行う“殺人ゲーム”が開始された。暗闇の中から被害者を部屋の外へ連れ出し、何食わぬ顔で戻ってくる犯人を当てる、というゲームだ。ゲームが開始され、犯行現場となるキッチンに男の悲鳴がこだました。と、それは遊びの悲鳴ではなく、ジョン・クロンビーの断末魔だったのだ！
エラリイは、犯人は先回りして犯人役だった女性を気絶させると、犯人役としてジョンをキッチンへ連れていき首を切り裂いたに違いない、と事件を分析する。しかし、犯人は、懐中電灯も持たずに、何一つ音を立てることなく障害物だらけの部屋を抜け出すことができたのか？という疑問が浮かび上がってきた。一体犯人は、どのようにして、物音一つ立てずに部屋を出て行くことができたのだろうか？
１０月と来ればハロウィンの時期である。この頃は日本でも騒がれるようになってきたが、まだまだアメリカの比ではあるまい。この大騒ぎの日に相応しいお遊びの中で起こった難事件をエラリイが解決するのである、黒猫の格好で（笑）。なんというか、ボンド・ストリート好みの伊達者がついにここまで来てしまったか、という感慨さえ抱きたくなってしまうが、謎そのものはけっこう本格的である。
ただ、エラリイとニッキーが室内に入ってくるだけでも大騒ぎだったのだから、他の来客者が室内に入ってきたときも障害物に蹴躓いて部屋をさらに乱雑にしたに違いない。従って、犯人はその中をちゃんと歩くことができたのだろうか、という点が少々疑問である。重大な瑕疵というわけではないが、この点までクリアできていれば、暗闇トリックの代表作として取り上げられるに相応しい出来となっていただろう。
戦車の防衛線か(P.132)
感謝祭を迎えて、ニッキーの行っている奉仕活動に付き合うエラリイ。ニッキーは感謝祭にあたって、貧しい人たちにいくばくかのご馳走を配っていたのだ。そんな中、イロクォイ族のケアリイおばさんの元を訪ねたのだが、ケアリイはいつの間にか引っ越していた。空振りに終わったニッキーを連れて、エラリイはケアリイが働いていたというフランス料理店で食事をする。と、そこでエラリイは偶然にも給仕のピエールからコカインを受け取ってしまう。
車が故障してしまったため、タクシーを拾ってケアリイの家を訪れたエラリイは、ケアリイの夫が脱獄しており、そこに潜んでいることに気づく。どうやらケアリイの亭主は以前行われた麻薬捜査の際、罪を被せられたらしい。今でも麻薬取引が行われていることを指摘されたクイーン警視は、ヴェリー部長刑事をフランス料理店に急行させるが、そこで見つかったのはピエールの死体だった。
果たしてピエールを殺したのは何者なのか？ エラリイは、ぶどう酒の壜が犯人を知っていることに気づき、そして……
十一月の感謝祭の時期にエラリイとニッキーが事件に巻き込まれた様子を描いた作品。としか言い様がない(^^;)。全体としてプロットが散漫であり、麻薬取引の問題とピエール殺害の問題と、ケアリイの亭主の問題とがごちゃごちゃになっており、また犯人を発見するためのエラリイの推理も冴えがない。クイーンパパの薫陶厚きあのエラリイはどこに行ってしまったのだろう？と言わんばかりの展開である。
また、信じられないような偶然に支えられている作品でもある。ここから汲み取れる教訓は、不用意な内緒話は止めよう、ということであろうか(^^;)。
先生って、ことばどおり、知識の倉だってことを。でも、それをひけらかさずにはいられない性分ですわね(P.160)と語る。いいぞ、ニッキー、もっと言え！（笑）
いちばんめずらしい、いちばん味のバランスがとれた、そして、いちばん完全に醸造されたぶどう酒(P.164)である。ソムリエも裸足で逃げ出しそうなこの条件に対して、エラリイが具体的に示したぶどう酒は“シャトー・ディケム”であった。かなり高額なぶどう酒のようである
インヴィジブル・マンか。チェスタートンだな(P.187)
シサーリア・イプソンは人形のコレクターとして著名な女性だったが、コレクションを競売にかけて孤児の保育事業の基金にすべし、と遺言を残して息を引き取った。そのコレクション、人形の数そのものは多かったが、それほどの高値は見込めなかった。唯一の例外は、４９カラットの大青ダイヤがはめ込まれた“フランス皇太子人形”であった。しかし、この人形に対して、稀代の怪盗コーマスが盗難予告状をボンドリングに送付してきたのだ。
挑戦を受けたクイーン警視とエラリイは、クリスマス前日のナッシュ・デパートにおいて、コレクションがただ一度展示されるため、厳戒体制を敷いた。なにしろ、サンタ・クロースの格好をしたヴェリー部長刑事の足元に、件の人形を飾ったのだ。この鉄壁の警備網を前に、コーマスはさまざまな策を弄するが、すべて失敗してしまう。展示時間が終り、ボンドリングが人形を手にしたとき……その人形は偽物だった！
いったい、いつ、人形はすり替えられたのか？ エラリイの明晰な頭脳は、苦悶の末、信じられないような真実を引き出した……！
１２月のクリスマスを題材に、『犯罪カレンダー』の掉尾を飾るに相応しい傑作。あまりにも単純なトリックと言えば言えるのだが、それをそうと感じさせない作家クイーンの筆致が冴えている。そのフェアプレイ精神は、江戸川乱歩の《怪人二十面相》ものとは訳が違うところに刮目すべし（これはこれで面白いのだが、二十面相の予告って、大概インチキ(^^;）。